世界堂書店

世界堂書店 (文春文庫)

世界堂書店 (文春文庫)

世界堂書店にようこそ。米澤穂信が心から愛する傑作小説たちを、アメリカ、イギリス、フランスはもちろん、中国、フィンランドギリシアなどなど、世界中から選び抜きました。不思議な物語、意地悪な話、恐ろしい結末、驚愕の真相……まさに珠玉のアンソロジー、ここに詰まった小説の魔法は、あなたの心をそっと揺さぶります。


収録作品
・「源氏の君の最後の恋」……マルグリット・ユルスナール
・「破滅の種子」……ジェラルド・カーシュ
・「ロンジュモーの囚人たち」……レオン・ブロワ
・「シャングリラ」……張系国
・「東洋趣味」……ヘレン・マクロイ
・「昔の借りを返す話」……シュテファン・ツヴァイク
・「バイオリンの声の少女」……ジュール・シュペルヴィエル
・「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」……キャロル・エムシュウィラー
・「いっぷう変わった人々」……レーナ・クルーン
・「連瑣」……蒲松齢
・「トーランド家の長老」……ヒュー・ウォルポール
・「十五人の殺人者たち」……ベン・ヘクト
・「石の葬式」……パノス・カルネジス
・「墓を愛した少年」……フィッツ=ジェイムズ・オブライエン
・「黄泉から」……久生十蘭

異色作家短篇集好きなら、要チェックのアンソロジー


この手のアンソロジーでは、編者のお陰で未だかつてない注目度なんだけど、恥ずかしながら、編者の著作は全く知らないんだよね。名前は見たことあるけど(ホントに国内作家弱いな……)
しかしながら、その選球眼はお見事。


ここまで粒ぞろいの奇想短篇アンソロジーもなかなかないし、しかも欧米だけでなく中国やギリシアの作家も含まれていて、こういう短篇が好きなんだなぁ、ということがよくわかる。
超ゲラゲラSF「シャングリラ」が入ってるだけで只者ではないですよw
既読も少なくないんだけど、お気に入りは、


・「破滅の種子」
それをただで手にしたものを破滅させる指輪、というウソの来歴を披露する骨董屋。
しかし、いつしかその話は事実としてひとり歩きし……
カーシュらしい法螺話系短篇なんだけど、その法螺話の持つ破壊力ときたら!
あとがきにもあるけど、「これがその品なんですよ」と内容よりも、枠組みに現実感が備わっている。


・「昔の借りを返す話」
少女次第の憧れだった俳優が、今では村民からバカにされている老人だと知った婦人。
彼女は、過去のとある借りを返すため、彼が名優だったことを知ら示すように話しかける。
ツヴァイク読むのはこれが初めて。
心温まる話なんだけど、読み手(主人公の旧友)に対する自慢にも見える……


・「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」
人付き合いのない人物の家に入り込み、勝手にそこで暮らす女。
今度の標的は自分と好みがぴったりで、入れ替わろうとするが……
コリアの「宵待草」*1と設定は似てるんだけど、ねっとりした不気味さははるかにこちらが上。
こういう寄生人間がいるのか、それとも彼女の二重人格的精神なのか……


・「トーランド家の長老」
町の二大勢力のひとつトーランド家。
その長老の老婆は一族を支配していたが、外部からやってきた夫人が近郊を崩し始め……
やめて! おばあちゃんのHPはもうゼロよ!


・「十五人の殺人者たち」
治療に失敗して、死なせてしまった患者の話を披露しあう秘密クラブ。
新規会員が語るのは……
ちょっとリッチーっぽい。


・「石の葬式」
地震によって露わになった赤子の棺に入っていたのは石。
それは死産だとされていたものだった。
神父が事情を調べ始めると……
このアンソロジーで、これが一番の収穫。
堅苦しいゴシック短篇かとおもいきや、あれよあれよとアクロバティックに物語が展開していく。