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図書室の魔法 上 (創元SF文庫)

図書室の魔法 上 (創元SF文庫)

図書室の魔法 下 (創元SF文庫)

図書室の魔法 下 (創元SF文庫)

最愛の双子の妹を失った15歳の少女モリは、狂気に囚われた母親から逃れ、一度も会ったことのない実父に引き取られた。緊張するモリだったが、地元図書館のSFやファンタジーを読み尽くすほど本好きの彼女は、父が大のSFファンだと知って親近感を抱く。だがそれも束の間、彼女は伯母たちの意向で女子寄宿学校に入れられてしまう。厳格な学校生活になじめず、同級生たちとも打ち解けないモリ。彼女はひとり大好きな小説に没頭し、魔術やフェアリーの秘密について書き綴りつつ、精一杯生きてゆこうとする――1980年ごろの英国を舞台に、心に傷を負う孤高の少女が秘密の日記に記す青春の日々。ヒューゴー賞ネビュラ賞・英国幻想文学大賞受賞の、癒しと成長の物語。
本を心の底から愛したならば、本もあなたを愛してくれる――窮屈な寄宿学校生活を送る少女モリは、大好きなSFやファンタジーを読みふけり、魔術とフェアリーの秘密を心の支えとして過ごす。うわべの付き合いはしても本当に心を許す相手はいない、ひとりぼっちの生活にも慣れはじめたころ、彼女は通い詰めていた町の図書館の司書から読書クラブに招かれた。彼女はそこで初めて、共通の話題をもつ仲間と出会う。だが、執拗こつきまとって離れない母親の悪意が彼女を悩ませ、苦しめる……。学校にも家庭にも居場所がない15歳の聡明な少女が、日記という形で書き綴った、自らの揺れ動く心。本を愛し本に救われた経験をもつ多くの読者の共感を呼んだ、感動の物語。

『ドラゴンがいっぱい!』*1や〈ファージング〉三部作*2の作者による、ヒューゴー賞ネビュラ賞・英国幻想文学大賞受賞作品。


主人公の女の子がゼラズニイ好きというだけで、撫でくりしたくなっちゃうSFおっさんは多いのではないでしょうか?
個人的には〈ダーシー卿〉が好きというだけで、もう!


孤独な少女の、本と青春と魔法の物語。


図書館のSFやファンタジーを読みつくすほど本好きのモリ。
最愛の双子の妹が亡くなり、片足が不自由になり、狂気の魔女である母親から逃げた彼女は、会ったこともない父親に引き取られるが、彼もSF者と知り親近感がわく。
しかし、すぐに厳格な寄宿学校に入れられ、まるで馴染めない彼女は、町の図書館にSFの読書サークルがあることを知り、友達や居場所を見つけるが、母の悪意ある魔法がモリに近づいていた……


日記体小説なんだけど、つまらない学校生活の愚痴をウジウジ書いているような狭いものではない。
まず。窮屈な学校生活、長期休暇で訪れる父や親戚との生活、恐ろしくも魅力的な魔法と妖精の世界、そして何物にも代えがたい本の世界、とモリの世界はなかなか豊か。
また、頭がいい少女ということはわかるんだけど、同時に、けっこうドライかつエキセントリックな面も持っていて、理不尽な校則や非論理的な同級生の振る舞いを批判したり、性についてかなりあけすけに書いていたり、なんか、こういう女子いたよなぁ、という感じw
モリの日々の様子を追っていくに連れ、彼女が語ろうとしない(日記だから当然)足の怪我と妹の死の真相、邪悪な母の企み、そして妖精の目的が物語として明らかになり、それと同時に、彼女のイニシエーションにつながっていく。


読者は、モリの書いたものしか読めないから、現実と幻想的な存在がシームレスで自然に見えるんだけど、これはマジック・リアリズム的語りにもなっているんだよね。
「自分みたいにつまらない人間のために人が集まってくれるはずがない」というオタク特有の卑屈と傲慢が入り混じった複雑な心境や、直視したくない現実を魔法と置き換えいるだけとも取れる。
妖精はもちろんのこと、魔法のせいで死んだ妹のこともモリを経由してしか言及されないんだよね。


しかし、それらがモリの中だけの幻想だとしても、本の出会いと、本に対する愛情は本物。
指輪物語』を聖典と頂き、1960〜70年代のSFやファンタジーを次々と読み漁っていく少女とあっちゃあ、そりゃ、ヒューゴー賞の投票しちゃうよねw
仲間がいないと思い込んでいた彼女が、読書サークルに参加して、注釈やフォロー抜きで語りまくれる喜び、それを聞いてくれる同好の士、という高揚感は、何らかの(趣味系)コミュニティに参加した人なら、覚えがあるはず。
特に今なら、ニッチな趣味でもオフ会で出会って、語り明かすのも少なく無いと思う。
でも、79〜80年は、ネットのオフ会なんて、それこそSFな時代。そこで彼女が自分以外のSF者やSF大会の存在、ティプトリーの正体を知った時の喜びと驚きは想像に難くない。
とにかく、モリがSF中心にどんどん読みまくり、題名が挙げられていく日記は、一部の人の琴線に大きく触れるはず。一昔、いや三昔くらい前の青背を手にとってたような人には直球でしょうw
彼女の評は結構辛口。『逆転世界』はそれほどお気に召さなかったかぁ。個人的に好きなのは『破滅の種子』の帯に対するイチャモン。帯詐欺は本読みなら誰もがぶつかる問題w
ここまで彼女に推されると、ゼラズニイを手に取りたくなっちゃうなぁ。
クラーク、ハインラインは割とよく出てくるんだけど、アシモフがあまり出てこないのは、イギリスだから? 時代? 単なる趣味? あと、シルヴァーバーグも結構出てくる。
ああ、『ザンジバーに立つ』……


この後、彼女がどうなるのかはわからないけど、人間的にも読書家としても、いっそうの成長を遂げると思いたい。


本好き、特にSF読みには是非オススメだけど、紫背はちょっと違和感。
ソフトカバーの単行本の方が良かったような気が。