THE DERVISH HOUSE

旋舞の千年都市 上 (創元海外SF叢書)

旋舞の千年都市 上 (創元海外SF叢書)

旋舞の千年都市 下 (創元海外SF叢書)

旋舞の千年都市 下 (創元海外SF叢書)

犠牲者ゼロの奇妙な自爆テロ事件がすべての始まり!? テロ現場に遭遇してから精霊が見えるようになった青年、探偵に憧れてテロの謎を探る少年、政府の安全保障シンクタンクに招かれた老経済学者、一大ガス市場詐欺を企むトレーダー、伝説の蜜漬けミイラ「蜜人」を探す美術商、ナノテク企業の売り込みと家宝探しに奔走する新米マーケッターの6人が、近未来のイスタンブールを駆け回る。キャンベル記念賞・英国SF協会賞受賞、魅惑の都市SF群像劇。
一攫千金を目前に窮地に陥るトレーダー。少年探偵はテロリストのアジトを突き止め、47年ぶりの元恋人のイスタンブール来訪に心揺れる老経済学者は、テロの真相に迫る。新米マーケッターはナノテクが世界にもたらす大変革を夢想し、美術商の蜜人探索行は帝都の秘史をあぶり出す。そして幻視能力を持った青年は、新たなテロ計画に巻き込まれ……魅力的な謎と矛盾に満ちた都市で、6人の行動は思いもよらない壮大な絵図を描き出す!

〈イラストレイテッドSFシリーズ〉以来の、東京創元社による単行本の新SF叢書の第一弾!
昔に比べれば、海外SFの文庫刊行も少なくなってる中、「海外SF」というのがホントに嬉しい。今のところ、隔月刊行の模様。


2027年のイスタンブールが舞台。


自爆テロに文字通り目の前で遭遇し、ジンを幻視するようになった青年。
変形・分解するミニロボットを自在に操り、テロ組織を探る、心臓に障害を持った少年。
政府のシンクタンクと、47年ぶりの老いらくの恋に惑う老経済学者。
職探しのさなか、親戚が立ち上げたナノテクベンチャーの売り込みをすることになった新米マーケッター。
大規模なガス市場詐欺を目論むトレーダー。
伝説の蜜人探しを依頼された美術商。


この六人が主人公。
ロボット少年と老経済学者が知り合い、トレーダーと美術商が夫婦、だけで、あとは、それぞれが古い建物(ダルヴィーシュ館)を改装したアパートの住人というくらいの接点しかない。


無関係に見えるキャラクターが、ちょっとずつすれ違い、大きな終局に向かって束ねられていく、グランドホテル方式は好きなんだよね〜。六人の物語が短いエピグラフで次々に交代して語られ、「あれ? 今の……」と振り返るように、ちょっとずつ他パートの要素が入り込む。
どんな街でもすれ違いドラマはできるけど、イスタンブールのごちゃごちゃ感は、よりすれ違いをシンボル化した舞台に思える。


東西の交差点、という認識はもう薄いが、過去と未来、テクノロジーと魔術(伝説)の交差点としての2027年のイスタンブールマッピングするには、六人の主人公たちに走り回ってもらわなければならない。
街歩き小説でもあって、様々な顔のイスタンブールが堪能できる。イスタンブールを旅行したのはもう20年近く前だけど、あの過密都市ぶりはよく覚えている。現代の街の下に、ローマ時代の貯水槽とか、不思議だったよなぁ。


今から十数年先の未来で、その間に宇宙人が来ることもなく、一歩下がったらマンデーンSFか? という程度で、ぶっ飛んだテクノロジーは出てこない。
しかも逆行するかのように、伝説の蜜漬ミイラやらジンやら、ファンタジックなガジェットが幅を利かせる。
しかし、極小のコーランナノテクノロジーと対になり、蜜によって変容した太古のミイラも未来を照射しているよう。


奇妙なテロの真の目的と方法はユニークだし、それによって大きく変わる六人の運命が徐々に収束していく様子は物語の醍醐味。
さらに、収束した主人公たちによって、人類は変容するかもしれない、と超SF的可能性が提示され、ラストはハンナ・バーベラで〆。