LA ORTA ORILLA

対岸 (フィクションのエル・ドラード)

対岸 (フィクションのエル・ドラード)

ボルヘスと並ぶアルゼンチン代表作家による幻の処女短編集。怪奇・幻想的な作品からSF的想像力を遺憾なく発揮した作品まで、フィクションと現実のあいだで戯れる珠玉の13編。短編小説というジャンルとテーマについて持論を披瀝した貴重な講演「短編小説の諸相」もあわせて収録。


・「吸血鬼の息子」
・「大きくなる手」
・「電話して、デリア」
・「レミの深い午睡」
「パズル」
・「夜の帰還」
・「魔女」
・「転居」
・「遠い鏡」
・「天体間対称」
・「星の清掃部隊」
・「海洋学短講」
・「手の休憩所」

すすめられた「南部高速道路」を読んで、自分が好きなのはSF(だけ)ではなく変な話なんだと気づいたのが、もう10年近く前。
『悪魔の涎・追い求める男 他八篇』*1はもちろんマスト。一方、『愛しのグレンダ』*2はイマイチはまらず、後期は性に合わんわ、と思ったのも6年前か。


今回訳された本書は、それとは逆に初期短篇集。
ちょっと薄味なんだけど、それでも『愛しのグレンダ』よりははるかに好みの味に近い。
『悪魔の涎・追い求める男 他八篇』が現実の世界を、正体不明のもの(現象)が侵食する話が多かったのに対して、『対岸』は割と直球に、吸血鬼や宇宙人などパラノーマルなガジェットを使用していることが多い。しかし、以降の作品のような、ぞっとさせるような筆力は弱いかなぁ。


その中でお気に入りは、
・「吸血鬼の息子」
吸血鬼の子供を妊娠した女性。
体内からどんどん血を吸われ……


・「大きくなる手」
友人を殴った後、両手が大きくなってしまった男。
それはどんどん大きく重くなり、なんとか病院に行くが……


・「転居」
帰宅し、妻にキスすると、なんだか別人のような気配がする。
気を取り直し、部屋に入るがやはり何か変わっているような……


・「遠い鏡」
普段はしない散歩をし、ふと知人の家に挨拶に行くと、ここは自分の家だと直感する。
調度も思ったとおりだが、にわかにパニックに陥り、本当の自分の家に。
翌朝、何もおかしなことはなく目が覚め、知人の家に確かめに行くが……


・「手の休憩所」
窓を開けておくと、部屋に遊びにやってくる手。
かわいがっているうちに、いろいろ知りたくなって試してみることに。


「転居」と「遠い鏡」は「続いている公園」 や「占拠された屋敷」に通じる作品。
「手の休憩所」はミギー!?w