Mondo9

モンド9 (モンドノーヴェ)

モンド9 (モンドノーヴェ)

不気味な巨大船〈ロブレド〉を軸に展開される、生物と機械を巡る四つの物語。機械と生物が境界を越えて、互いを侵食する。機械部品は血肉と混ざり合い、肉体は毒に蝕まれて真鍮に変容していく。機械は毒薬によって死に、機械の命令で巨大な鳥が産んだ卵から生まれるのは機械部品。生物は金属に侵され、機械は生命の営みを行なう。砂の下に潜むのは屑鉄を食する奇妙な植物〈錆喰らい〉、そして勃発する機械と機械の戦い…

イタリアSFというと、『偉大なる幻影』*1、『第四次元』、『レ・コスミコミケ*2あたりで知識が止まってない?(何十年前だよ!)もしくは『宇宙船サジタリウス*3w まぁ、実際翻訳もされないしね。
去年訳された『時鐘の翼』*4も90年代で、しかもSFというよりは戦闘機小説だったし、イタリアSFの現状はうかがえない(それをいうなら、アメリカ以外はほとんどわからないんだけど)


そんな中訳された今作は2012年発表で、しかもイタリアでいくつも受賞しており、まさに旬の作品!
日本語訳で『第九世界』とか『第九惑星』あたりになると思うんだけど、あえて言語のまま『モンドノーヴェ』と耳慣れない音にすることによって、いかがわしい期待感を覚えるのは非イタリア語者の特権w


錆と廃油と腐臭に彩られた『風の谷のナウシカ


血肉を燃料にする機械、触れるだけで危険な毒の砂漠、鳥と機械のハーフ、屑鉄を食べる巨大な植物、生きながら肉体が金属化していく奇病……


なんで鳥が機械部品の卵を生むのとか、毒で機械を殺すとか、正直よくわからないことが多いんだけど、異形の描写そのものが推進力になっている。
例えば、街のように巨大な砂漠を進む船、というビジョンだけでグッと来るものがあるんだけど、それを反芻する暇もなく、非常にグロテスクな密室を見せる作者のサービス心よw
機械が支配している世界と聞くと、ロボットや超人工知能のSFを思い浮かべるけど、そのような主従逆転とはなんか違うんだよね。
モンドノーヴェでは、機械は逆らうことのできない自然で、言うなれば「神」と呼んでもいいような存在。だから人々は理解を諦め共存するしかなく、その御業の前にはなすすべがない。


人間に厳しい自然なのは『ナウシカ』同様なんだけど、腐海や酸の海にある種の美しさや静謐さがあるのに対して、モンドノーヴェは醜く、グロテスクで、主人公たちには自由も希望もない。しかし、物語やそれぞれの説明よりも先に、異形の世界と情け容赦ない運命が目に飛び込んできて、「モンド」が連想させる悪趣味な見世物として一冊を支える魅力がある。


続編も期待したいし、他の作品も読んでみたいなぁ。『Infect@』がそそられる。