もっと厭な物語

最悪の結末、不安な幕切れ、絶望の最終行。文豪・夏目漱石の不吉きわまりない掌編で幕を開ける「後味の悪い小説」アンソロジー
人間の恐怖を追究する実験がもたらした凄惨な事件を措くC・パーカー「恐怖の探究」、寝室に幽閉される女性が陥る狂気を決り出すC・P・ギルマンの名作「黄色い壁紙」他全十編。あなたの心の闇を浄化します。

『厭な物語』*1に続くアンソロジー第二弾。


・「『夢十夜』より第三夜」……夏目漱石 
こんな夢を見た。
六歳の自分の子供を背負っている。
しかし、いつの間にか目が潰れている……


・「私の仕事の邪魔をする隣人たちに関する報告書」……エドワード・ケアリー 
アパートに越してきた男。
隣人たちがうるさくて仕事ができないと愚痴るが……
初めは、神経質な男が周囲の音を過剰にうるさがっているのかと思いきや、むしろ執拗なまでに隣人たちへのクレームを掘り起こしていくさまに狂気を感じる。
さらには、クレームのために認識を歪めていく彼に激しい嫌悪感。
『望楼館追想*2も読もうかなぁ。


・「乳母車」……氷川瓏 
深夜の道を歩いていると、乳母車を押す若い女が……
都市伝説や怪談で同じようなオチをよく見るけど、これが源流?


・「黄色い壁紙」……シャーロット・パーキンズ・ギルマン 
妻の転地療養で別荘にやって来た夫婦。
しかし、彼女は部屋の黄色い壁紙が不気味に感じられ……
もう、題名の時点で気持ち悪い。
ゲシュタルト的に、彼女が壁紙を神経質に気にしているだけの話かと思いきや、まるでエッシャーの絵画のように、世界と影が入れ替わっていく。
また、当時の精神病に対する軽視も嫌度を増すガジェットになっている。
伊藤潤二でコミカライズ希望w


・「深夜急行」……アルフレッド・ノイズ  
子供の時に、やけに印象的だった一冊の本。
大人になり、その挿絵そっくりのプラットフォームに降り立つと、そこには自分が座っている。
恐怖に駆られ、駅を出るが……
よくわからないんだけど、非常に印象的な作品。
ストーリーではなく、理由のない恐怖を文章の形にしている感じ。


・「ロバート」……スタンリイ・エリン
定年が近い、ベテラン女教師。
今までなんの問題もなかった生徒のロバートが、突然 授業中にボーっとするようになり……
子どもというバリアーを盾に、追い詰めていく話は嫌だなぁ。
しかし、この作品では、ラストが、それまでの物語とは無関係な嫌展開で……


・「皮を剥ぐ」……草野唯雄 
工事現場ではたらく三人。
動物の祟りはあるのか、という話になり、一人が確かめてみよう、と野良犬の皮を生きたまま剥いでしまう。
何も起きないが……
個人的には、前半に出てくるカエルの話が、実家の田んぼの道が思い出されて、激しく嫌。
ラストの鬼畜展開は蛇足な気がする。伏線上手いけど。


・「恐怖の探究」……クライヴ・バーカー 
大学で、恐怖の探究をしているという男に出会った主人公。
彼は、怖いものなんてないという女子大生をまず実験し……


・「赤い蝋燭と人魚」……小川未明 
優しい人間に我が子を育ててもらおうと託した人魚。
蝋燭屋の老夫婦が子供を拾い育てることに。
成長した人魚は蝋燭に絵をつけ、それを買って船出すると無事に帰ってこられると評判になるが……
何が嫌って、最初の人間を善なるものと信じきっている母人魚。
残念ながら、我々は人間がそんなにいい人ばかりでないし、ころっと宗旨変えすることも、時にはひどく残酷なことをするのも知っている。
彼女の思いはいたたまれない。


・「著者謹呈」……ルイス・パジェット
強請ろうとしていた魔術師を殺してしまい、魔術書を持って逃げた記者。
復讐を誓う使い魔だが、その魔術書は、持ち主が危機から逃れる方法を示してくれる。
しかし、それは使用回数が決まっており……
前回同様、解説後の収録で、ラストページに仕掛けが。
嫌度は低いけど、なかなか楽しい作品。
TVドラマ『If』のエピソードを思い出した。


お気に入りは、「私の仕事の邪魔をする隣人たちに関する報告書」「黄色い壁紙」「赤い蝋燭と人魚」「著者謹呈」かな。


第三弾も期待したいなぁ。意表をついて『ちょっと厭な物語』とかw