PEACE
- 作者: ジーン・ウルフ,西崎憲,館野浩美
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2014/01/28
- メディア: 単行本
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アメリカ中西部の町に住む老人ウィアは静かに回想する、自分の半生を、過去の不思議な出来事を、説明のつかない奇妙な事件を……時間と空間を錯綜して語られる、魅惑と謎に満ちた物語の数々。邯鄲の夢と幽霊の館、千夜一夜物語とアイルランド神話、死者を縛める書と聖ブレンダンと猫と鼠の王、腕のない女と石化する薬剤師――『ケルベロス第五の首』『デス博士の島その他の物語』の巨匠、ウルフが魔術的技巧で綴る究極の幻想文学が約40年の時を経てついに邦訳。
何か派手なことが起きるわけでもないし、正直、仕掛けもわからないんだけど、置くことをやめられない、この読書引力の凄さよ!
田舎町に暮らす老人ウィアの回想(?)という体裁。
少年時代から現在までが語られていくんだけど、これが一筋縄ではいかない。時間がなんの前触れもなくあちこちに跳び、さらに語られる内容も作中作だったり、現実感のない出来事だったり。
そこに出てくるエピソードの数々は、『孤児の物語』*1のように、どこかで聞いたことがあるような、しかし、我々の記憶にあるそれとはディティールの異なる伝説や昔話。
さらに、ウィアは全てを明らかにしているわけではなく、はっきりと語らない部分も少なくない。
これら全てが、人の記憶をなぞっているよう。
「考え」「意識」しているからこそ、回想は時系列に沿っている気がしているけど、おそらくは整理されていない引き出しと同じ。
また、詳細が違う昔話も、それが実は真相、などという大それたことではなく、伝聞にありがちな齟齬。
薬屋の実験など現実離れしたエピソードも、ウィアが実際に体験したわけではないから、真実はわからない。一方で、匿名の誰かの仕業にもかかわらず、描写が克明なものは彼自身の体験かも、ということが逆照射される。
また、同じ街を舞台にした「取り替え子」*2も、記憶のギャップを突いて、人生が奪われていく物語のようにも見える。
解説を読んで、また再読したくなる魅力ある物語。
以下ネタバレ。
巻末の解説によれば、幽霊の回想や未来の夢という解釈が定番だとか。
個人的には後者。
夢というか、未来の記憶。
「邯鄲の夢」が何度か語られたり、「死者を縛める書」のエピソードのように未来から遡って過去を構築するさまなどが、子供であるウィアが未来を見ているのでは、と思う。