THE ZERO
- 作者: ジェス・ウォルター,上岡伸雄,児玉晃二
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/12/26
- メディア: 単行本
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「いつ平常にもどると思う?」 かつて平常だったことがあったのだ。警察官ブライアンが目覚めると、拳銃がかたわらに、そして頭は血にまみれていた――。現代アメリカへの痛烈な風刺の毒をきかせた、9月12日のスリラー小説=新型クライム・ノベルの傑作登場! このカフカ的展開にあなたはついてゆけるか?
『市民ヴィンス』*1の作者による新作なんだけど、ミステリのレーベルではなく、岩波の文芸書から刊行。
物事が飛び飛びに描かれ、しかも、その瞬間に気づいた主人公は、それまで自分が何をしていたのか全く記憶にない、という展開は、「ここがウィネトカならきみはジュディ」*2のようなSFとして読むこともできる(読むな)
しかし、描かれているのは「ここがニューヨークならきみはグランドゼロ」と言わんばかりの暗鬱さ。
『ゼロ・ダーク・サーティ』*3同様、今を生きる人間が今読むべき小説で、記憶を失った主人公同様、その瞬間に何が起きたのかほとんど描かれていないし、誰の仕業なのかも明示されていない。しかし、書かれていない瞬間を、主人公に代わって読者は補完することができる。だから、最初期に駆けつけた人間である主人公が何を見て、記憶を失ったのか空白から思い描いてしまう。
日本人でも、あの瞬間に何やっていたのか、未だに覚えてるし、思い出すと鳥肌が立つ。それがアメリカ人、それもあのビルを目の当たりした人間なら、いかほどのダメージを受けたのか。
同時に、知らないうちに対テロ組織に入れられ、とりあえずアラブ人を拷問し、しかし、記憶は飛び飛びだから自分が何をやっているのかまるでわからない姿は、報復の名のもとに、都合の悪いことは見えないようにしているアメリカにも思える。
雪のように舞い散る無数の書類のビジョンは強烈。