THE VARIABLE MAN AND OTHER STORIES

変数人間 (ハヤカワ文庫SF)

変数人間 (ハヤカワ文庫SF)

すべてが予測可能になった未来社会、時の流れを超えてやって来た謎の男コールは、唯一の不確定要素だった……波潤万丈のアクションSF中篇の表題作、奇妙なゲームに明け暮れる地下シェルターに暮らす人々を描く中期の傑作「パーキー・パットの日々」、同名映画原作のSFアクション「ペイチェック」をはじめ、短篇集初収録の掌篇「猫と宇宙船」ほか、ディック得意の超能力アクション&サスペンス全10篇を収録した傑作選

・「パーキー・パットの日々」
・「CM地獄」
・「不屈の蛙」
・「あんな目はごめんだ」
・「猫と宇宙船」
・「スパイはだれだ」
・「不適応者」
・「超能力世界」
・「ペイチェック
・「変数人間」

毎度毎度言ってますが、SF界隈の末席にいながらディックはほとんど読まずに今まで生きてきて、それは長篇にかぎらず、短篇もしかり。
だから、再編集で短篇集を出してくれるのは、手に取る機会を作ってくれてありがたい。この後も三冊出る予定だとか。
「ラウタヴァーラの場合」もようやく収録されるのかな(余計なことは知ってる)


ディックというと、世界没落的で、陰謀論で、物語としての骨格がグダグダになっていく、という先入観が植え付けられているんだけど、この短篇集に収められている作品に限っては、かなり普通にSFしていて、ちゃんと整合性がとれているw
でもやはり、面白いのは、病的な発想のもの。普通のSFはよく言って牧歌的、悪く言えば単に古い。


特に「パーキー・パットの日々」は面白いなぁ。崩壊した地球で、よくわからないゲーム(人生ゲーム+ドールハウス的な?)に興じる大人たちを描いた作品。
認知の狂い方が絶妙で、ショックを受けるの、そこ!? という、傍から見たら冗談にしか見えない薄気味悪さ。それに引き換え冷静な子供たち。


他に気に入ったのは「あんな目はごめんだ」と「不適応者」
自分以外がおかしく、自身には全く疑いを持たないという精神症状をうまくSF的サスペンスに転換している。
後者のラストは『キリング・ジョーク*1に通ずるなぁ。


映画化*2もされた「ペイチェック」はパズル的で面白いんだけど、あのラスト幸せな結婚生活が送れるようには思えないよなぁ。


ディックの長篇も復刊していくようだけど、ハヤカワはあの黒表紙で統一? それだと買わないとな……