2013年度掲載翻訳短篇

翻訳短篇は以下。

今年は少なめだなぁ。


個人的お気に入りは、


・「クリストファー・レイヴン」……シオドラ・ゴス
久々に、学び舎に集まった4人の女性。
彼女たちは、学生時代にある事件を通じて絆が強まった。
それは、4人の夢に同じ詩人が現れたことだった……
なんというか、ライト・ゴシックとも言えるような短篇で、美形詩人の夢できゃあきゃあ騒いでる4人が非常に可愛らしい。
シオドラ・ゴスはもっと読みたい。


・「選択」 ……ポール・J・マコーリイ
異星人とのコンタクトを経た未来。
元活動家の母と、海沿いのトレイラー・ハウスで暮らすルーカス。
近所に、異星人が作った海ドラゴンが打ちあげられたと聞いて、幼馴染みのダミアンと見に行くが……
日本紹介は久々のマコーリイ。
ファーストインプレッションは青春SFっぽいんだけど、その結末はひどく苦い。
今から逃れたい、という思いは未来でも変わらず、かつ、その経緯がこの作品の設定と乖離していないのが上手い。


・「紙の動物園」 ……ケン・リュウ
アメリカ人の父と中国人の母を持つ少年。
彼女は折り紙に命を吹き込むことができたのだが、少年はアメリカに馴染まない彼女とだんだん疎遠になっていき……
SFというよりはファンタジー
主人公と同い年ということもあるのかもしれないけど、これは結構ズシンと来るなぁ。
母親を蔑ろにしながら就職活動したのに、どうやら現在大した仕事をしていなさそうな主人公の姿に、忸怩たる思いが。
この親子関係は普遍的で、おそらく、いろいろ重ね合わせることができると思うんだよね。


・「ベティ・ノックスとディクショナリ・ジョーンズ、過ぎ去りしティーンエイジに立ち返っての奇譚」 ……ジョン・G・ヘムリイ
未来をよくするため、15歳の自分の身体にタイムトラベルしたベティ・ノックス博士。
仲間が行方不明になっていることも気がかりだが、15歳の体は思っていた以上に若々しくて……
ジャック・キャンベルの別名義作品。
邦訳作品は例外なくミリタリーSFだけだから、そういうのしか書いて似のかと思いきや、こんなタイムトラベルラブコメも書けるのね(笑)
甘酢な展開も、ラストもいいし、非常に楽しい作品。


・「小さな供物」……パオロ・バチガルピ
汚染物質が蔓延している未来。
そこでは出産の前に、予備分娩が行われていた……
ちょっと希望ある(?)「第六ポンプ」的未来といったところ。
現在から見ればぎょっとするようなことでも、自分がその時そこにいたのなら、それを全否定できるのか?というモラルを見せつけられるのがSF。


・「霧に橋を架けた男」 ……キジ・ジョンスン
舞台が異世界だけで、内容は『プロジェクトX』かと思いきや、橋がもたらす視界の拡大、認識の変革は立派にSF。
また、描写は少ないながらも、登場人物の印象もそれぞれ強く残る。


・「エミリーの総て」……コニー・ウィリス
ベテラン女優クレアのもとに、人間と見分けがつかないアンドロイドの少女がやってくる。
アンドロイドは欲望などプログラムされておらず、人間の職を奪う存在ではないと宣伝中だった。
しかし、彼女はロケッツのダンサーになりたいと語る。
クレアはそれに力を貸そうとするが……
恒例のクリスマス・ストーリー。
たとえ人種が違えども、夢を追う努力をする人間を妨げ、それを馬鹿にすることは許されない。
そんなメッセージの込められた作品。
ベタだけど、ラストも感動的。
ウィリスのクリスマス・ストーリーは好きなんだよね。


・「ナイト・トレイン」……ラヴィ・ティドハー
大蛞蝓が引く列車を舞台にした、暗殺者との攻防。
1行目の"彼女の名前はモリーではなかったし、ミラーシェードであれ何であれ、眼鏡はしていなかった"が踏み絵になっているような作品で、これで引いちゃう人もいるかも。


・「ホワイトフェード」 ……キャサリン・M・ヴァレンテ
違う歴史を辿ったらしいアメリカ。
そこは白人至上主義やマッカーシズムに支配されていた。
しかし、アメリカ人は激減し、少年少女は生殖可能年齢になると、お披露目されることに……
なぜか『ハンガー・ゲーム』とビジュアルイメージがダブったんだけど、ディストピア感は遥かに絶望的。
生まれる子供の数が少ないから、将来を希望することもなく人生を決められていく子供たち。その絶望をごまかすかのような、過剰なコマーシャリズム
ヴァレンテの他の作品同様、フェミニズム要素は強いものの、現代社会にも通じる暗澹たる様。同時に、ディストピアSFとしてのビジュアルも、色々と想像させてくれる。


・「ジャガンナート――世界の主」 ……カリン・ティドベック
巨大なマザーの中で生まれ、成長し、マザーのために働く人々。
ある日、マザーの動きがおかしくなり……
閉じられた世界から、好奇心旺盛な少女が外の世界を知ろうとする、という筋立てはよくあるけど、この短編は全てが肉色でぬめぬめとしたグロテスクな世界が披露される。
お初の作家だけど、他のも読んでみたいなぁ。


・「最終試験」 ……メガン・アーケンバーグ
質問と解答形式で描かれる、世界の危機と夫婦の終わり。
変わった記述だけど、いつしか、真面目に設問を考えている自分に気づく。
終わった試験同様、「ああすれば、こうすれば……」と思い悩むが、過去はもうどうにもならない。
それは別れた夫も、謎の怪物たちも同じ。


・「暗黒神降臨」 ……ジャック・ヴァンス
開発中の岩だらけの星。
鉱脈のそばで作業員が突然消えるという事件が続く。
その謎を解くように、傲慢な男から依頼されたマグナス・リドルフは……
依頼は完璧に果たしながら、マグナスの知略と皮肉によって依頼人が痛い目を見る、というパターンはよく似ている。
これはまとめて読みたいなぁ。


・「パリンプセスト」 ……チャールズ・ストロス
人類を絶滅させないよう、何度もタイムトラベルを繰り返し、世界を作り変えていく組織。
若きエージェントは、自分が何者かに命を狙われていることを知るが……
正直、何が行われているんだかわからないんだけど、迫力とSFマインドに溢れ、面白い中篇と紹介してしまいそうw
でも、退屈せずに前後編読んでしまったのは事実。
訳されているものだけ判断するなら、ストロスは長めの短篇〜中篇くらいが好みだなぁ。


掲載数は少なかったけど、こう並べると、年間とおして粒ぞろいだったなぁ。
この中から一本選べと言われたら、絶対に「小さな供物」の一択。


特集では、「2012年度・英米SF受賞作特集」*1「「ベストSF2012」上位作家競作」*2「The Best of Foreign Short Fictions 海外SF短篇セレクション」*3がよかったな、って、ベスト系の特集だから当然か。
特に「The Best of Foreign Short Fictions」は来年もやってほしいなぁ。

そして、来年は700号!