THE DOG FIGHTER

ドッグ・ファイター

ドッグ・ファイター

幼いころ毎晩、祖父から残酷で暴力的な話を聞かされて育った男は、祖父の望みどおりの荒くれ者となった。仕事を求めてメキシコの港町に流れ着き、やがて、その町で満月の夜のたびに催されるイヌと人との1対1の闘い、ドッグ・ファイティングにファイターとして参加するようになる――

『ABC・オブ・デス』*1の一篇「Dogfight」のヴィジュアルで、完全に脳内補完。
絶対、そういう生活は避けたいと思ってるんだけど、それでも剣闘士とかギャンブラーってのは、憧れちゃうものがあるんだよね。花山さんを語る警察官みたいに(笑)


非常に男臭く、荒々しく、残酷なのに、巨躯で怪力の荒くれ者でありながら知性を感じさせる語りのため、モノクロの写真のような静謐さも併せ持った作品。


人間も犬も、その破壊描写は容赦無いんだけど、血臭や生理的嫌悪感が抜け落ち、ある種美しささえ感じる。
語り手がいると、「信用出来ない」という枕詞を付けたくなってしまう習性を持った本読みは少なくないと思うけど(笑)、極めて肉体的な物語なのに、それと乖離したこの語りがポイントで、主人公は本当に美しい思い出として想起しているんだよね。
都合よく嘘ついてるようには見えないんだけど、ひどいことも沢山したが、それはそれとして、いい思い出じゃった……という感じ。現に、ラストは相当ひどい結果になってると思うし。唯一、そこが語り手の後悔なのかもしれないけど。


しかし、さらに逆転し、やはり肉体的な物語なのかも、と思ってみたり。
主人公は愛やプライドよりも、生きながらえることを選択する。それこそ野良犬のように。