THE BOOKMAN

革命の倫敦(ロンドン) (ブックマン秘史1)

革命の倫敦(ロンドン) (ブックマン秘史1)

詩人の青年オーファンは、古書店に勤めながら世に出るチャンスをうかがっていた。時代は、人ならざるものが統べる異形のヴィクトリア朝英国、モリアティ教授が首相を務める政権へのレジスタンス運動が激化していた。そんななか本に仕込んだ爆弾を用いる〈ブックマン〉によるテロが発生、恋人を喪ったオーファンは大きな時代の流れに巻き込まれてゆく……。ヴィクトリア朝オールスターキャストで贈る冒険SF三部作開幕!

最低でも、年に一度は呟いてるような気がするんだけど、『ドラキュラ紀元*1と『リーグ・オブ・エクストラオーディナリージェントルメン』*2に比肩する作品の登場を期待してるわけですよ。
あらすじで「これは!」と思っても、たいていハズレ(『ジャバウォッキー』*3は例外的な大アタリ。もっと続いてくれれば……)


そんな中、昨年のSFマガジン*4に掲載された「ストーカー・メモランダム」はなかなかのアタリ。人間、蜥蜴人、ロボットが共存するヴィクトリア時代。そこに実時の人物、フィクションのキャラクターが入り乱れる、という上記作品を彷彿させる世界観。
それと同じ舞台の長篇が本作。〈ブックマン秘史〉三部作の第一巻。
モリアーティ首相、アドラー警部って聞いただけで、行けそうな気がするでしょ?


何でもありで、非常に楽しいんだけど、思ってたよりも口当たりが軽いなぁ。同じ材料を使いながら、向こうがガッツリ系なら、こちらはファーストフード。それはそれで良さがあり、あとがき読むと、作者はあえて軽さを狙っているようにも思える。オタク的箱庭世界を堪能するより、冒険活劇としてスピードある展開を楽しむようになっている。メインストーリーは貴種流離譚のロマンスだし。


しかし、この「ブックマン」と言う名前がクセモノで、本を爆弾にしたり、魂を転写したりするのもあるけど、ブックマンは他のキャラよりも上位のレイヤーに存在していて、その名の通り、これが本の中の出来事だと知っているような。もしくは、世界を書き換えたことを承知しているフシがあるような。「ボナパルトの今回の人生」という記述が気になるし、本作も「ストーカー・メモランダム」も、主人公は描くことを生業としているんだよね。
まぁ、深読みごっこなだけで、三部作読んでみないとわからないけど。


こういうサンプリング小説は、主要キャラ以外は、ほんの一瞬、名前を見せるだけのことが多いんだけど、ワイヴァーン船長はカッコいいんで、再登場乞う! 彼の海賊規律が、優良企業っぽい(笑)
残念なのは、巻末に人名辞典は欲しかったなぁ。
ドラキュラ紀元』に比べれば少ないんで、やる気ならできなくもない。オレはやらないけど(笑)
ちなみに、始めの頃に顔を見せるネヴィル・マスケリンは、みんな大好き「戦場の魔術師」ジャスパー・マスケリンの祖父。


こういう作品が、この時代を舞台にしていることが多いのはなんでだろうね?
個人的には、マイクロフトが起点であり、楔のような気がするなぁ。けっしてシャーロックではないんだよね。
切り裂きジャックの正体同様、彼の思わせぶりな設定はオールマイティーでどこにでも接続できる。一度つながれば、あとは玉突き状態で、この手の世界をビッグバン的に創造する。スチームパンクだからヴィクトリア朝なのではなく、彼が存在するからこそ19世紀のイギリスが舞台であり、スチームガジェットは後から付いてきているに過ぎない。
完全にお約束だけど、ディオゲネスクラブが出てこないと、物足りないもんね(笑)