THE ISLANDERS

時間勾配によって生じる歪みが原因で、精緻な地図の作成が不可能なこの世界は、軍事的交戦状態にある諸国で構成されている「北大陸」と、その主戦場となっている「南大陸」、およびその間のミッドウェー海に点在する島々〈夢幻諸島(ドリーム・アーキベラゴ)〉から成っている。最凶最悪の昆虫スライムの発見譚、パントマイマー殺人事件、謎の天才画家の物語……。死と狂気に彩られた〈夢幻諸島〉の島々には、それぞれに美しくも儚い物語があった。語り/騙りの達人プリーストが年来のテーマとしてきた〈夢幻諸島〉ものの集大成的連作集。英国SF協会賞/ジョン・W・キャンベル記念賞受賞作。

発表されたときは嬉しい半面、隔月刊行という長さ、途中でストップしないよね? という疑念が捨てきれなかった新銀背第一期も、これにて無事完結。
その掉尾を飾るにふさわしい傑作。


〈ドリーム・アーキベラゴ〉もののオムニバス(?)なんだけど、これまで発表された短篇をまとめたものではなく、ほぼ丸々書き下ろし。だからといって、各エピソードに明確なつながりがあるかというと、あるような、ないような。


無数の島々があり、同じ数だけの言語とそれ以上の呼び名がある〈夢幻諸島(ドリーム・アーキベラゴ)〉。それらのガイドブックという体裁。
そもそも、時間と空間が歪んでいるため、正確な地図が作れないのに、そのガイドブックを作ろうという試み。さらに、いつ誰がこれを書いたのかが全くの謎。チェスター・カムストンによる序文は、一体いつ書かれたものなのか? 彼の言葉と反するような献辞。


内容は、普通に島の説明文、物語調、手記など様々。長さも一頁に満たないものから中篇レベルまで様々。
それぞれの島の物語に一気に引きこまれ、どこに行ってみようかとシミュレーションしている自分に気づく。
ABC順に島が紹介されていて、ひとつひとつは独立しているからどこから読んでも差し障りはないんだけど、通して読むと、何度か登場する人物や出来事がある。世界的な作家、謎の放浪画家、女性活動家、パントマイマー殺人事件、トンネル……
通読することによって、それらの全体像が見えてくるんだけど、同時に、それぞれの発言に齟齬が生じ、全体像を知るものほど混乱をきたす。
序文の、全ては現実ではない、という言葉の裏返しで、全ては異なる真実で、島の数だけの多元世界が重なりあった海域なのかもしれない。
正確な地図が決して書けず、かろうじて正確に近いものは自分たちの棲む島だけ、という光景を文字で表した一冊。


お気入りは……挙げようと思ったら、みんな面白いので必読。あとがきではちょっと退屈と書かれているけど、個人的には序文から面白いんですが。
これを読んでから「火葬」*1を再読するのも、スライムの対処を知っているから、この題名の禍々しさが感じられて、なかなかオツ。


以下ネタバレ


誤読してるのか、それを誘われているのか、自分でも見分けつかないんだけど、カウラーの最期は、本人なのか影武者なのか、どっちが先に死んだのか一貫してないよね? また、ファティマばりの顕現も一箇所で盛り上がってるだけで、何故か他では語られないのも謎。ホントなら、たしかに奇跡なのに。
カウラーと並んでこの作品の主人公とも言えるチェスター・カムストンの死も怪しい。そっくりの兄は本当に存在するの?
なぜ、彼の死の記事が収録されているのに、序文を書いてるのか?
双子っていうのも、プリーストのオブセッションというか、お気に入りガジェットだよな〜