BLACKOUT / ALL CLEAR

ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア 1(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア 1(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア2 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア2 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

2060年、オックスフォード大学の史学生三人は、第二次大戦下のイギリスでの現地調査に送りだされた。メロピーは郊外の屋敷のメイドとして疎開児童を観察し、ポリーはデパートの売り子としてロンドン大空襲で灯火管制(ブラックアウト)のもとにある市民生活を体験し、マイクルはアメリカ人記者としてダンケルク撤退における民間人の英雄を探そうとしていた。ところが、現地に到着した三人はそれぞれ思いもよらぬ事態にまきこまれてしまう……続篇『オール・クリア』とともにヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞三賞を受賞した、人気作家ウィリスの大作。
2060年から、第二次大戦下のイギリスでの現地調査に送りだされた、オックスフォード大学の史学生三人――アメリカ人記者に扮してドーヴァーをめざしたマイク、ロンドンのデパートの売り子となったポリー、郊外にある領主館でメイドをしていたアイリーンことメロピーは、それぞれが未来に帰還するための降下点が使えなくなっていた。このままでは、過去に足止めされてしまう。ロンドンで再会した三人は、別の降下点を使うべく、同時代にいるはずの史学生ジェラルドを捜し出そうとするが……前作『ブラックアウト』とともにヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞を受賞したウイリスの大作。
第二次大戦下のイギリスで現地調査をするため、過去へとタイムトラベルしたオックスフォード大学の史学生三人――マイク、ポリー、メロピーは、未来に帰還するための降下点が使えないことを知り、べつの降下点を探そうとしていた。だが、新たな問題も発覚した。ポリーがすでに過去に来ていたため、その時点までに未来に帰還できないとたいへんなことになる。史学生が危機に陥ったときには救出しにくるはずのダンワージー教授、万一のときは助けにいくとポリーに約束したコリンは、はたしてやってくるのか……前作とともにヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞を受賞した二部作、ついに完結。

普段は、新刊は買ったらすぐ読むんだけど、これは完全に三分冊(原著では二冊)ということなので、全部出るまで待つことに。『ブラックアウト』って、もう一年近く前!? この前出た気がしてたのに……


短篇・中篇は結構読んでるんだけど、実はウィリスの長篇を読むのは初。というわけで、オックスフォード大学史学部シリーズも当然初めて。今回読んだ人間としては、これ単品でも十二分に面白いけど、やはりシリーズに親しんでおいた方が、色々と感慨深かっただろうなぁ、と思うので、未読で余裕がある方は前作から読むのもいいかも。


戦時中のロンドンの描写が、書いても書いても終わらなかったというウィリスの言葉通り、読んでも読んでも終わらない。
しかし、これが非常に面白い。疎開先のメイド、爆撃の怯えるデパガ、救急車を運転する婦人部隊、偽情報を紛れ込ませる新聞記事、そのミニマムな歴史エピソードは興味深いものばかり。だからこそ、史学生たちはその時代の紛れ込んで調査をするわけだけれども、彼らは大局的な歴史の出来事は知ってはいるものの、細かい部分で何が起きるのかまではわからず、爆撃やミサイルなど、時代人同様の不安を感じる。
戦中で、名も無き人々の活躍によって歴史が作られていく、というのがテーマだけど、暗さはなく、むしろぶっ殺したくなるような糞ガキや素人劇団のドタバタがスラップスティック感を醸し出し、さらにそれが、思うように行かない歴史調査の様子に重なってくる。


物語は、延々と戦中イギリス生活の描写が続く中、なぜ現代(2060年)に帰れなくなってしまったのか? もしかしたら歴史を変えてしまったのではないだろうか? という謎を推進力に少しずつ展開していき、さらにタイムトラベラーにとってのデッドラインという燃料が投下され、1941年以外に調査に来ていると(思しき)史学生たちの物語がシャッフルされ、その長大なのに飽きさせない緩急の付け方はお見事。


『ブラックアウト』『オール・クリアー1』までは、「え!? ここで終わり!?」が続くし、完全に戦中ロンドンの空気を吸いすぎて、SFを読んでることを忘れちゃうんだけど、『オール・クリアー2』はまさにタイムトラベル的怒涛の伏線回収。それまでの何気ないシーンや長すぎて忘れていた謎にスポットライトが当てられ、それら全てが意味がある、というのは何度も言及される、クリスティのミステリーのよう。
次々と埋まっていくパズルのピースにカタルシスを覚えると同時に、サー・ゴドフリーの別れ、戦勝日など情感を高められていき、そのまま閉幕。


長さ(厚さ)にめげず、オススメ。