七人の使者・神を見た犬 他十三篇

タタール人の砂漠』*1ついでに短篇集。

閉ざされた状況のなかでしだいに募ってくる不安、けっして叶えられることのない期待、断じて到達できない目標――。不条理な世界の罠に絡め取られた人間の不安と苦悩、人生という時の流れの残酷さ、死や破滅への憧憬など、人間を取り巻く状況の不可知性を、象徴的・寓意的な手法で描いた15の短篇。イタリア幻想文学の精華。


・「七人の使者」
・「大護送隊襲撃」
・「七階」
・「それでも戸を叩く」
・「マント」
・「竜退治」
・「水滴」
・「神を見た犬」
・「なにかが起こった」
・「山崩れ」
・「円盤が舞い下りた」
・「道路開通式」
・「急行列車」
・「聖者たち」
・「自動車のペスト」

光文社版『神を見た犬』*2キリスト教ありきの話が多くて、それほど趣味ではなかったんだけど、これは異色短篇度が高く、全体的に楽しめた。
ちなみに、光文社版とは4篇かぶり。河出版『七人の使者』*3から「Lで始まるもの」が割愛されている。


また、見えない脅威や広がる荒野、システマティックすぎるお役所仕事など、『タタール人の砂漠』と共通する要素が見て取れるのも興味深い。


お気入りは、
・「七人の使者」
王国を踏査しようと出発した王子。
王都への連絡係を毎日送るが、距離が伸びるごとに彼らの往復時間はどんどん増大していき……
都から離れれば離れるほど、時間が伸びていく様子は『逆転世界』のような悪夢感。


・「七階」
7階建ての病院に入院した男。
そこは7階が一番軽く、下がっていく毎に重病人になっていくのだ。
7階で優越感に浸っていた彼だが、ひょんなことから6階に移ることになり……
何度も読んでるけど、病院に行きたくなくなるお話(笑)


・「なにかが起こった」
高速鉄道での旅。
窓から見えるのは、進行方向とは逆に、逃げるように向かう人の群れ。
はたして、行く先には何が……
見えない脅威を扱った中では直球の作品。しかも、主人公は否応なしにそこに向かわなければならない。
破滅SFと読めなくもない。


・「道路開通式」
道路開通式のため、もう一方の街に向かった一行。
しかし、道は途中からなくなり、行けども行けども荒野が広がる……
ブッツァーティ版「南部高速道路」*4


・「急行列車」
列車の遅れが積み重なり、駅への到着は数ヶ月単位でズレていく……