EN MEMORIA DE PAULINA

人生とは神々を楽しませるための見世物にすぎない――幻影の土地に生まれた真の幻想作家ビオイ=カサーレス、本邦初の短篇集。愛の幻想、もう一つの生、夢の誘い、そして影と分身をめぐる物語。


 収録作品
・「パウリーナの思い出に」En memoria de Paulina
・「二人の側から」De los dos lados
・「愛のからくり」Clave para un amor
・「墓穴掘り」Cavar un foso
・「大空の陰謀」La trama celeste
・「影の下」El lado de la sombra
・「偶像」El idolo
・「大熾天使」El gran Serafin
・「真実の顔」Las caras de la verdad
・「雪の偽証」El perjurio de la nieve

先日の『たんぽぽ娘』(奇想コレクション)同様、〈短篇小説の快楽〉も出ないなぁ、と待ちくたびれていたら、突然登場! 国書さんはサプライズがお好きでいらっしゃる(笑) ちなみにこちらは、6年目で4巻目。3巻までは早かったんだけどなぁ……


日本初の短篇集。
どうしても、『モレルの発明』*1と似たところ探しになっちゃうなぁ。
分身、知らぬ間に劇に組み込まれてしまう、追い求める愛、ファム・ファタルという要素が各作品に見ることができるのは興味深い。ただ、それらを一作の中に持っている『モレルの発明』にはやはりかなわない。
その中でも、表題作の完成度は高い。オチ自体は珍しいものではないんだけど、幻想が現実を侵食してしまうさまが、叙述トリック(?)によって、読者の脳内も上書きしていく。
また「大空の陰謀」は平行世界ものなんだけど、ビオイ=カサーレスの幻惑するような筆致によって、SFとは違う味付けになっている。
上記2作は印象的、なんて言ってたら、既読でしたよ……
全く記憶になし。まぁ『ピアノ・チューナー・オブ・アースクエイク』*2もさっぱり覚えてないんで、これこそ幻を追うビオイ=カサーレスの作風にハマったということではないでしょうか?(笑)


他には、『メメント*3を想起させながらも、その現場となる屋内は時間を止めているという、二種類の幻を扱った「雪の偽証」も面白かった。
海が腐り、世界滅亡を前にする「大熾天使」も良かったかな。


気になったのが、北半球で3月は南でも3月だよね?