BLOOD WORK

輸血医ドニの人体実験 ---科学革命期の研究競争とある殺人事件の謎

輸血医ドニの人体実験 ---科学革命期の研究競争とある殺人事件の謎

17世紀のヨーロッパを舞台に、科学者たちの国を挙げての壮絶な研究競争と、輸血にすべてを賭けた医者のドラマを克明に描き、医療のターニングポイントとなったある重大事件の真相に迫る!

ふと、輸血はどう始まったのか気になって調べてみたのが、二三ヶ月前。
それを察してくれたかのようなタイミング(笑)


血液については、2世紀のガレノスの説が長らく信じられてきた。血は胃で作られ、心臓に燃料として投下され、熱を発生させる。その理屈から、病気になったときは、熱を下げるために瀉血が行われてきた。
しかし、17世紀に入って、循環説が発見される。
そこから、輸血につながっていくんだけど、その黎明期を知ってる人は少ないんじゃないかなぁ?
想像つくと思うけど、まぁ、かなりの鳥肌モノ。
最初は犬で実験されていて、アルコールを注入すると酔っ払うから、他の臓器と繋がっていることが推測できる。でも、スコッチブロスだと、当然死んじゃうわけですよ。どうやら、死ぬ液体と死なないものがあるらしい。そこで、他の個体の血液を輸血することに落ち着く。


犬での成功が続き、本書の主人公ドニは人間に施してみることに。
当時は、動物の肉を食べることが治療でもあった時代だから、活きのいい動物の血を輸血すれば元気になる(はず)
その一方で、そんなことをしたら、姿が動物みたいになってしまうのではないか? という危惧も存在していた。これは、20世紀中盤になっても、有色人種の血液は別にしていたんだから笑えない。
どういうわけか子羊を輸血した一人目は成功し、二人目も成功。しかし、三人目で……


一般的には、死人が出たため、その後、輸血は150年間封印された、と認知されているんだけど、それならば、帝王切開やその他手術も大勢死んでいるのに禁止されなかった。
本書では、反対派の陰謀と殺人事件によって輸血が抹殺された真相を、文書から掘り起こしていく。
また、同時にイギリスとフランスの研究競争、パトロンが科学者を抱え込む流行など、現代につながる医療革命の様子も描いている。


錬金術と化学が別れておらず、床屋が外科手術を行なっていた時代。
現在から見れば滑稽な上にグロテスク、当時の被験者の身に降りかかったことは想像もしたくないけど、近代医療史は面白いんだよね。
呪術や迷信と違って、完全に間違ってはいるものの、そこに立脚した理論に沿って治療を進める思考方法は、現代と同じ。でも、その土台はデタラメ、という祖語がホントに面白い。


輸血以外でドニの功績が現在も残っている、というラストが感動的。