THE SISTERS BROTHERS
- 作者: パトリック・デウィット,茂木健
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2013/05/11
- メディア: 単行本
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粗野で狡い兄・チャーリー。普段は優しいが、キレる大変なことになる弟・イーライ。悪名とどろく凄腕の殺し屋シスターズ兄弟は、雇い主の“提督”に命じられるまま、ある山師を消しにカリフォルニアへと旅立つ。ゴールドラッシュに沸く狂乱のアメリカで兄弟は、この目も当てられないダメな旅路で、何に出遭い、何を得て、そして何か失うのか? 小説のあらゆる感情を投入し、世界の読書界に一大旋風を巻き起こした、総督文学賞など四冠制覇、ブッカー賞最終候補作!
何が凄いとは上手く言えないんだけど、一気読みしてしまった。
牧歌的にグロテスクを語り、残酷なのに人情味あふれる。
ゴールドラッシュのアメリカを舞台にした、殺し屋シスターズ兄弟の珍道中。コメディではないのに笑いを誘われるのは、コーエン兄弟とかを観てるような気分。
語り手は弟のイーライ。ちょっと頭が鈍い巨漢で、その口調はフィクション的イメージのままに穏やか。しかし、女への愛も、将来への展望も、故郷への郷愁も、容赦無い人体損壊も同じ調子で語られる。
兄貴はひと目でダメなのは分かるんだけど、弟の方はそれとは対照的におっとりしているのかと思いきや、敵をめちゃくちゃに殺すことにためらいはないし、愛情を持っていたものとの別れもスイッチのように切り替えが早い。特に馬の可愛がりと扱いはなぁ……
また、なんでもない所で大笑いするシーンが何度か出てくるんだけど、当事者にとっては意味不明で、彼らにとっては異形の存在、怯えの対象。それが筆致もあってか、読者的にはホラー=コメディ的に笑える。
基本、ダメなキャラクターしか出てこないんだけど、それがうろついていてもおかしくないというのが、狂乱のゴールドラッシュの雰囲気を体現している。
とにかく語り口がコミカルで、温かみを錯覚させるけど、よく考えれば壊れた人間性にゾッとするし、意外にグロ描写も少なくないし、でも、読了後はいい話を読んだ気分になれる、という心のベクトルをどこに向ければいいのかわからない読書感(笑)