LEVIATHAN WAKES

巨獣めざめる (上) (ハヤカワ文庫SF)

巨獣めざめる (上) (ハヤカワ文庫SF)

巨獣めざめる (下) (ハヤカワ文庫SF)

巨獣めざめる (下) (ハヤカワ文庫SF)

月や火星、小惑星帯に人類が進出した未来。土星から小惑星帯に帰還中の水運搬船が何者かの攻撃を受け、破壊される。独立の機運高まる小惑星帯への火星の宣戦布告か? かろうじて生き延びた副長のホールデンらは、復讐を心に秘め、謎を追うが……。一方、その襲撃の知らせで戦争の危機に揺れる小惑星ケレスでは、刑事ミラーが失踪した富豪の娘ジェリーの捜索任務を引き受けることになるが……。話題の本格宇宙SF登場!
太陽系全体が戦争へ動き始めるなか、刑事ミラーは行方不明の少女ジュリーを憑かれたように探し、手がかりを迫って、小惑星エロスへ向かう。そこで襲撃の真犯人を探る船乗りホールデンと出会い、行動をともにすることに。だがそのときエロスは、治安部隊を名乗るならず者たちに占拠され、恐るべき罠が張りめぐらされていた……。リアリティあふれる描写と高い物語性で評判となった、実力派の気鋭がおくる新時代の傑作SF

まず、ご注意。
単品かと思ったら、全六部予定の〈拡大時代シリーズ〉第一巻。まぁ、話は一応これで完結してるけど。


以前、ハヤカワから一時期出ていたニュー・スペースオペラとは明らかに感触が違う。
作者が、肉体労働者が主人公になるような、ブルーカラースペースオペラを目指していたらしく、それがちゃんと形になっている。
まだ、望遠鏡で見えるくらいのスペオペで、超光速推進も通信も存在せず、ファーストコンタクトは果たされておらず、地球・火星・小惑星帯で相変わらずの文化的、経済的対立が続いている。地球人と小惑星帯人で、体型の違いこそあれ、完全に別の生き物として認識するまでには、まだまだかかりそう。
そんな地についた(無重力だけど)スペオペなので、何が起こっているのか脳内映像化しやすい。


物語は、正義感あふれる宇宙のトラック野郎ホールデンの仇討ちと、シニカルな老刑事ミラーが行方不明になった少女の捜索がメイン。
ひょんなことから二人は合流し、ホールデンの熱すぎる正義感が起爆剤に、ミラーの執拗な捜索と冷酷ともいえる行動が推進力となって展開していく。
このホールデンは主人公らしい正義感なんだけど、あまりに不用意な発言を連発し、惑星間は一触即発の状態に。一方、ミラーが追う先には、ホラー的な存在が現れ、これが後の作品に大きく関わってきそうな気配。
グロ描写はマーティンっぽいかな。


遠未来のハイパーテクノロジーによる魔法はなく、放射線を浴びれば恒久的な治療が必要だし、超人もヒーローも存在しない。
あくまで普通に働いている人々が主人公で、彼らの意識や愚痴が現在とかけ離れていないのがいい。後半に出てくる「胡椒とってくれ」のくだりは笑える。もっと、そういうダベリも見たいなぁ。


ラストが〈拡大時代〉の始まりを予感させ、これは、続刊翻訳希望だなぁ。
『S‐Fマガジン』*1に掲載された「エンジン」の話も冒頭にちょろっと登場。


題名から、超巨大な宇宙船が出てくるのかと思ってました……