La decouverte Australe

飛行術を発明した主人公ヴィクトランは、愛するクリスチーヌを女王とした王道楽土を、峻険山に建設するが、やがて手狭になり、南半球へ新天地発見の旅に出る。そこには夜行族の住む肥沃な土地があり、クリスチース島と名づけて移住する。近隣の島々には巨人族の島をはじめ、猿人間、熊人間、犬人間、豚人間、牛人間、羊人間、ピーバー人間、鳥人間、驢馬人間、象人間、その他種々の動物人間の島々が散在しており、そして、賢者たちの逆さまの園もあった……

荒俣先生の『怪物誌』*1で見て以来、読みたかった小説。


珍妙な動物人間たちの島をめぐる第二部は無論楽しいものの、それ以上に、主人公の目的のために手段を正当化する思想とヨーロッパ至上主義的な言動に、現代の尺度で、当時の物語を批判するのは間違いだとわかってるけど、辟易する。


片思いの彼女を拉致して、孕ませて、実は彼女も彼を愛していた、ってなんてエロゲ?
しかも彼女だけじゃなくて、農民とか職人とか、生活に必要な人間はとにかく拉致。これは当時から見て、許容できた行動なの?


さらに動物人間たちに出会ってからが21世紀人としては目に余る。
平等で差別はしないとは言ってるけど、主人公一家の王権の優位性は確保してるは、馬人間は重労働に利用できるだとか、ビーバー人間は死後の毛皮で交易できないかだとか、ホントに白人以外は人間だと見てないのね。
動物人間との混血を繰り返せば奇形が消せるって民族浄化だし、啓蒙といえば聞こえはいいけど文化侵略だもんなぁ。
比較的大衆向けに書かれたであろう小説でこうなんだから、これが常識だったんだろうね。教科書的知識でなく、それがわかったのはかなり勉強になった。


気を取り直して、期待していた動物人間たちの島々は、基本的には観相学っぽい。ライオン人間は強くて気高いとか、驢馬人間は発情してるとか、そんな感じで、見た目はあまり異形感がない。蛙人間、蛇人間、象人間が面白いかな。
個人的には名前しか出てこない、昆虫人間と牡蠣人間が見たかったんですが。


ラストは、賢者の島に倣って新法発布で終わるんだけど、そこで、性器に関する侮辱がかなり重罪なのは、作者になにか嫌な思い出が?(笑)


動物人間たちの挿絵多数なんだけど、結構ディティールが潰れちゃってるので、前述した『怪物誌』で見るのが吉。
ちなみに、『啓蒙のユートピアIII』*2にも収録されている模様。