「ファンタスチカの可能性〜チェコと日本の文学最前線〜」
3/5に開催された、
河出書房新社『もうひとつの街』*1『ヴェネツィアの恋人』*2 刊行記念
ミハル・アイヴァス × 高野史緒 トークイベント「ファンタスチカの可能性〜チェコと日本の文学最前線〜」
に行ってきた。
主に、アイヴァス氏についての話しかメモしてないのであしからず。
誤記、勘違いなどありましたら、ご教授ください。
元々の経緯は、チェコ大使館での現代文学についての講演だったそうで。
そこで、翻訳者で、今回の司会でもある阿部賢一がアイヴァスを紹介。
アイヴァスは短篇が少なく、『もうひとつの街』をどうしても紹介したく(読みたく)て、無理矢理訳したらGOサインが出て、無事『時間はだれも待ってくれない』*3に抄訳を掲載。
で、それが今回の全訳版につながる。
ちなみに、創元はゲラ出しが遅く(笑)、阿部氏は当時クレメンティヌムにいたとか。
高野史緒(以下、高):旧共産圏は一緒くたに考えてしまうけど、当たり前ながら全く違う。『時間はだれも待ってくれない』の際も、ちゃんと進行し、版権などもスムーズに進んだ。
ロシアはカオスだとか(笑)
ちなみに、現在『時間はだれも待ってくれない』ロシア編が進行中だそうです。
ミハル・アイヴァス(以下、ア):プラハは魔術的、ロマンティックなイメージがあるが、それは安っぽく、観光的に作られたイメージ。
本当の謎とは、歩きまわって、自分で発見して初めて浮かび上がってくるもの。だから、入り込んだ描写になる。とは言え、プラハの歴史も背景になっている。
それに対して、『空虚な街路』はプラハ郊外が舞台。
高:ヨーロッパを舞台にした作品が多いのは、日本ではない、現実逃避的(笑)
でも、アイヴァスはプラハを舞台にしていることが多い。外国を舞台にしないのか?
ア:架空の土地を舞台にしたものは『黄金時代』がある。
ギリシア旅行で思いついた作品で、全くの未知の世界を想像しようと試みた。
実際の場所を舞台にするときも見方が独特で、観光でないものを提示したい。
リアルをファンタスティックなものは、それほど隔たっていない。
高:海のイメージが多いのは?
ア:わからない(笑)
深層意識から浮かび上がってくるもの。
高:本人の無意識から浮かび上がるものを大切にしたい。
ア:無意識を分析しないようにしている。それをすると、意味がなくなる。
ただ、理論家でもあるので、自問してしまうことも。
敢えて言うなら、無形なものを意識的に使っていたのかも。
阿部賢一(以下、阿):移動する物語が多いが、移動の意味は?
ア:全ての物語は、放浪がモチーフ。
幼年期のヴェルヌなどの読書経験が影響しているのかも。それらの経験が強いので、心理小説は無理(笑)色々と彷徨するのは探偵小説にテイストが近い。
『空虚な街路』は女性を探すために移動し続ける物語。殺人はないのでミステリとしては×。
『南方旅行』で殺人事件が2件あるのでそれでトントン(笑)書けば書くほど長くなってしまうので、南端のギリシアが終着点。
阿:原著はYA層をターゲットにしているため、イラストが多い。
ア:読書に限らず、中高生の頃の体験が強烈に残っている。
十代の読書経験は、重要な時期。
阿:音楽や音が重要なガジェットとして登場するが、執筆中に音楽を聴くか?
ア:聴かない。
理想的なBGMは海の音だが、チェコにはない。
代わりになるのはカフェの喧騒。でも、人が多いと会話内容が入ってしまい、塩梅が難しい。
でも、画家になりたかったので、視覚的なものに影響を受ける。
①ジョルジョ・デ・キリコ:作品はキリコ的。
②パウル・クレー:崩れていく、無形的なものになっていくさまは、この抽象画家につながる。
③ポール・セザンヌ:視覚の注視。
高:絵画もいいが、美術館というものが好き。
ア:彷徨い歩くのが大事。
疲れからトランス状態になり、それが違う見方になる。
高:半歩ずれた場所に自分がいるような感覚。
会場からの質問(以下、質):映画は?
高:スター・ウォーズが大好き(笑)それから、タルコフスキーやコクトー。
ア:当時はチェコ国内で上映できなかったので、スター・ウォーズは90年代に入ってから鑑賞。
質:ファンタスチカという言葉の広まりと、マジックリアリズムとの関係。
高:ファンタスチカは通じる。
ア:チェコでは定義づけがない。
マジックリアリズムといわれるのは心外。ガルシア・マルケスなどとは、作風がぜんぜん違う。
アメリカではSFというジャンルで発売され、チェコでも反響があった。SFとジャンル分けされるのも悪くないな、と思う(笑)
質:チェコはシュヴァンクマイエルなど変わったクリエイターが多いイメージだが、それはチェコの土地柄と関係あるのか?
ア:チェコ人は、悪いところもあるけど、リベラルで理性的。人と違うことを許容出来る。
阿:最後に、誰のために書いているのか?
ア:全く知らない人々に向けて。
その知らない友人たちとは会うことはないだろうけれども、作品を通じて繋がりたい。
ラストにサイン会。
『時間はだれも待ってくれない』も持ってけばよかった〜!