THE CORN MAIDEN AND OTHER NIGHTMARES

美しい金髪の下級生を誇拐する、有名私立中学校の女子三人組(「とうもろこしの乙女」)、屈強で悪魔的な性格の兄にいたぶられる、善良な芸術家肌の弟(「化石の兄弟」)、好色でハンサムな兄に悩まされる、奥手で繊細な弟(「タマゴテングタケ」)、退役傷病軍人の若者に思いを寄せる、裕福な未亡人(「ヘルピング・ハンズ」)、悪夢のような現実に落ちこんでいく、腕利きの美容整形外科医(「頭の穴」)。1995年から2010年にかけで発表された多くの短篇から、著者自らが選んだ悪夢的作品の傑作集。ブラム・ストーカー賞(短篇小説集部門)、世界幻想文学大賞(短篇部門「化石の兄弟」)受賞

個人的には、オーツは『生ける屍』*1の印象が非常に強い。
行為も気持ち悪いけど、それ以上に、犯罪を起こした理由が(客観的には)まるでわからないのが、本当に不気味。
作家は、異常事件と読者との認識に橋渡しができる存在だけど、オーツの場合はそこが投げっぱなしで、そのスッキリしない読後が魅力とも言える。
アンソロジーの収められている作品もその手のものが多いし、この短篇集でもそれは思う存分味わえる。


収録作品
・「とうもろこしの乙女、ある愛の物語」The Corn Maiden
しい金髪の下級生を誇拐する、有名私立中学校の女子三人組。
オーツなので、最後の最後まで、安心できない。
美しいような、不安なようなラスト。
生贄に選ばれる=神に近い、そんな達観した視点にも見える。


・「ベールシェバ」Beersheba
見知らぬ女から電話をもらった男。
会いに行ってみると、それは、十数年会っていなかった、別れた妻の連れ子。
旧交を温めるつもりで、湖畔にドライブに出るが……
このラストも、「これ」と断言できないんだけど、前向きに見えるなぁ。


・「私の名を知る者はいない」Nobody Knows My Name
妹が生まれてきたことを嬉しがらない女の子。
まるで、そのことを見抜いているかのような野良猫がいる……


・「化石の兄弟」Fossil Figures
スポーツマンで頭もよく、誰にでも愛されている兄と、彼に全てを吸われてしまったかのような、病弱で芸術家肌の双子の弟。
その二人の絆と一生。
非常に美しいラストは忘れがたい。


・「タマゴテングタケ」Death-Cup
調子のいい兄を軽蔑する、双子の弟。
彼は兄の毒殺を考えるが……
いろいろな意味で、「化石の兄弟」の対と言えるような作品。


・「ヘルピング・ハンズ」Helping Hamds
夫の遺品を、退役傷病軍人のお店に売りに行った未亡人。
彼女はそこにいた若者に思いを寄せるが……


・「頭の穴」A Hole in the Head
最近、不払いが増え、資金繰りに困っている美容整形外科医。
そんなある日、常連からトレパネーションをしてくれと頼まれる。
初めは断るが……
何ら違法なことはしていないけど、色々と気持ち悪い美容整形。
不気味な形で実体化している主人公の理想と現実が、それに華を添える(笑)
主人公の人称が、名前とDrがごっちゃになってるのが気持ち悪い。
さらに、そこに妄想と現実も混ざって……


お気に入りは、「とうもろこしの乙女、ある愛の物語」「化石の兄弟」「頭の穴」かな。