STORM RISING

『太陽神の司祭』*1続編。〈ヴァルデマールの嵐〉第2部。

〈東の帝国〉の皇帝に派遣された軍の指揮官トレメイン大公は、大勢の部下とともにハードーン国で途方にくれていた。魔法嵐の悪化によって、本国との連絡がまったく取れなくなってしまったのだ。そのうえ、これまで頼ってきた魔法が、ほとんど使えない。こうなったら魔法に頼らず、この地で生き延びていくしかない。トレメインは部下たちを叱咤激励し、現地の民と共存していく方策を模索しはじめた。そして彼らのこの動きが、ヴァルデマール側同盟軍の知るところとなるが……。人気の異世界ファンタジー〈ヴァルデマールの嵐〉第2部ついに登場。
カース国の使節カラルは悩んでいた。正規の使節であった師ウルリッヒの死によって、自らが使節の務めをこなさねばならなくなったのだ。ヴァルデマールの女王、〈使者〉たち、そして同盟国の使節に交じり、カース国を代表して発言し行動しなければならない。歳より若く見えるうえに、もともと補佐役の書記官であったカラルの意見など、誰が重んじてくれるだろう。案の定、ハードーン国にいる〈東の帝国〉の軍隊を攻撃することに反対のカラルを、シン=エイ=インの使節が目の敵にしはじめた。風雲急を告げる〈ヴァルデマール年代記〉正史第2部。

せめて年刊にしてもらわないと、前作忘れちゃうよ。
ハードーンってどんな国だったんだっけ? タリアがカースを友好を結んだのはなんだっけ?
誰か、まとめて!


愚痴はさておき。


『太陽神の司祭』が、技術者たちがそれぞれの能力を結集して、未曽有の大災害に対する『プロジェクトX』的展開だったのに対して、今回は陣頭指揮に立ち、平社員とともに困難に立ち向かう経営者を描いた『カンブリア宮殿』って感じ(笑)


いくつかのエピソードと主人公が並列して語られているんだけど、中でも、本国と断絶し、なれない土地で、しかも未だ経験したことのない魔法嵐を前に、部下たちを守りために最善を尽くそうとするトレメイン大公のパートが一番面白い。
もしかしたら、シリーズで最高かも。
こんな人いたっけ? という印象だったのが、あれよあれよと、本書の主人公と言っても過言ではないほどの活躍。〈東の帝国〉自体が現代的な支配形態を持っているがゆえ、トレメインの奮闘ぶりもファンタジーらしからぬ経営的なもので、我々にもわかりやすい。それにともなって彼の理想的な経営者としての思想もあらわになり、キャラクター造形に深みが出ている。
彼の領地経営だけで、1冊読みたいなぁ。


また、ヴァルデマール側の防波堤計画も、相変わらずこれまで存在感のなかった技術者集団が活躍していて面白い。しかも、いずれは産業革命が起きそうな予感も。


一方、カラルのパートは、若く、しかも最近まで敵対していた国の大使であるため、まるで信用されておらず、でも国益は背負わなければならない苦労が描かれる。彼の政治的立ち回りも、もっと見たかった気もする。


面白かったのは、どれも魔法があまり関係ないんだよね。物語自体も、ラストに魔法的なものが出てくるだけで、全体としては印象が薄い。


これまでも書いてきたけど、作者のラッキーは戦争シーンがはっきり言って下手。主人公だけが戦っているようにしか見えない。また、魔法が使えるものに重きを多く置きすぎて、逆にスケール感を狭めているような気がする。
でも、〈ヴァルデマールの嵐〉は、全く立場に違う人々の群像劇なので、非常に広がりがあるように感じられる。これまで記号的扱いだった外国人も、今回は同列の主人公に当てられているので、より全土的な危機という印象を強めているし、描写は少ないものの、トレメインのパートでは、一般人も生活し、状況に戦っているのがわかる。


はたして、第三部ではどうなるのか、今回出てこなかった〈東の帝国〉はどう動くのか、楽しみ。
出来れば、今年中にお願いします。