BLACK PROJECTS, WHITE KNIGHTS

黒き計画、白き騎士: 時間結社〈カンパニー〉極秘記録 (ハヤカワ文庫SF)

黒き計画、白き騎士: 時間結社〈カンパニー〉極秘記録 (ハヤカワ文庫SF)

以前、一話だけSFMに掲載され、もっと読みたいな〜、と思っていたら、ようやく短篇集が刊行!

時は24世紀。ドクター・ゼウス株式会社をはじめ、いくつもの名前を持つ秘密結社〈カンパニー〉があった。この秘密結社は、「時間旅行」と「不死」の技術を使い、過去の「至宝」を手に入れることで莫大な利益を上げていたのだ! 霊薬エリクシールの発見の顛末や、ミイラの棺に隠された驚くべき秘宝など、時間結社の腹黒き計画に踊らされ、人体改造を施されて不死身の体になったエージェントたちが手がけた驚愕の事件の数々!

・「ゼウスの猟犬たち」The Hounds of Zeus
〈カンパニー〉エージェントのデータを盗み出した男。
彼が見た、メンバーの面々とは?
キャラクター紹介になっていると同時に、彼らの謎めいたプロフィールが否が応にも、これから語られるストーリーへの期待を高めてくれる。
初っ端の、秘密基地めいたくすぐりが!


・「貴腐」Noble Mold 
19世紀のアメリカ。
ジョゼフとメンドーサは、インディオの畑にある葡萄の木が目的。
それは、〈カンパニー〉にとって最優先のもので、いかなる手段でも手に入れなければならない。
しかし、インディオは良い返事はするのに、どうしてもそれを譲ろうとしない。
その理由は?


・「スマート・アレック」Smart Alec
24世紀。
両親とともに、ヨットで暮らす4歳のアレック。
彼にはある秘密が。


・「カルーギン博士の逮捕に関連する事実について」Facts Relating to the Arrest of Dr.Kalugin
史書に痕跡が残ってしまった、数少ない事例。
19世紀、北アメリカのロシア入植地。
〈カンパニー〉のカルーギンのもとに、クーリエが伝言を届けに来た。
しかし、彼はどうも様子が変で……


・「オールド・フラット・トップ」Old Flat Top
新石器時代
クロマニヨン人の少年は、神に会うため、山に登る。
その洞窟には巨人がいて、よくわからないことを語りはじめた。


・「ここに葬られし亡骸」The Dust Enclosed Here
24世紀。
見せ物として、サイバー的に人格を再現されているシェイクスピア
窮屈な未来に、彼は飽き飽きしていた。
そこに少年がやってきて、彼を自由にしてくれるというが……


・「リテラリー・エージェント」The Literary Agent
1979年。
荒野で行き倒れになった、ロバート・ルイス・スティーブンスンのもとに〈カンパニー〉のジョゼフが訪れる。
彼は、スティーブンスンの発表されない作品を求めに来たのだ。
ティーブンスンを鼓舞し、物語をひねり出させようとするが……


・「レムリアは甦る!」Lemuria Will Rise!
19世紀のカルフォルニア
海岸で見つかる植物を探しに来たメンドーサは、そこで高い超能力を持ち老人に出会う。
彼は、レムリア大陸が浮上するのを待っているというのだが……


・「ダラッドストーン号の遭難」The Wreck of the Gladdstone
1893年、ロサンゼルス沖。
全員死亡した沈没船から、絵画を引き上げるエージェントたち。
しかし、実は乗組員が一人だけ生き残っており、彼もお宝を求めて、そこにやってきた!


・「モンスター・ストーリー」Monster Story
24世紀。
アレックは、全10歳児が出る職業評価の選別に。
彼は極めて特別なため、親代わりの執事は気が気でない。


・「ハヌマーン」Hanuman
1860年カルフォルニアに建てられた〈カンパニー〉のリハビリ施設。
事故で重傷をおったメンドーサは、そこで、現代語を喋るアウストラロピテクスと出会う。
彼はハヌマーンという、実験的に作られた原始人のエージェント。
その生い立ちは?


・「スタジオの便利屋、マリブの海に消ゆ」Studio Dick Drowns Near Malibu
1938年ハリウッド。
今の身分を殺すことにしたジョゼフ。
キューバ中に事故死を装うが、そこで自殺を試みた女性を助けてしまい……


・「将来有望な少年」The Likely Lad
14歳のアレック。
金を稼ぐために、ちょっとした密輸を試みるが……


・「黄衣の女王」The Queen in Yellow
1914年のエジプト。
ルイスはエジプト研究の第一人者ピートリー教授に近づく。
しかし、上司に当たる調整官のレディー・キウは厳しく……


・「ハーランズ・ランディングのホテルにて」The Hotel at Harlan’s Landing
20世紀前半アメリカ。
ある夜、寂れたバーに集まった隣人5人。
そこに奇妙な男が現れる。


不老不死のサイボーグたちが過去にタイム・トラベルし、歴史から消える運命の品物を入手する顛末を描いた〈カンパニー〉シリーズの連作短篇集。
ミッションそのものだったり、大怪我を負ってリハビリ中だったり、超能力者に翻弄されたり、コミカルだったり、様々な形で断片的に語られることによって、〈カンパニー〉の遠大な全体像が見えてくる。
しかし、断片故に細部はわからず、逆にそれを埋めたくなる魅力がキャラクターと物語にある。
特に、詳細不明のエージェント〈アドナイ〉の謎めいた人生と、24世紀社会の窮屈さは、もっと読みたいという欲求不満に陥る。


ただ、この短篇集だけだと、未来へのタイムトラベルは不可能って設定はよくわからないよね? 過去から奪取した品物を未来に届ける方法も詳しくは語られていないし。
また、エージェントたちは24世紀にたどり着いたら、またそこから過去に派遣されるの?
この辺は長篇で説明されているのかな?


色々な語り口とタイプの短篇があり、みんな面白いんだけど、中でもお気に入りは、「貴腐」「レムリアは甦る!」「ハヌマーン」「モンスター・ストーリー」「スタジオの便利屋、マリブの海に消ゆ」あたりかな。