GOLIATH

ゴリアテ ―ロリスと電磁兵器― (新ハヤカワ・SF・シリーズ)

ゴリアテ ―ロリスと電磁兵器― (新ハヤカワ・SF・シリーズ)

オスマン帝国イスタンブールで、ドイツの野望を打ち砕いた公子アレックと男装の士官候補生デリン。英国海軍の飛行獣リヴァイアサンで東京へ向かっていた彼らは、ロシアのツングースカで驚異の光景を目にする。その状況を引き起こしたという天才科学者ニコラ・テスラは、戦争終結の可能性を秘めた電磁兵器ゴリアテをニューヨークに建設しているという。なんとしても戦争を終結させたいアレックは、ゴリアテの真価を判断すべくテスラに接近するが……。はたしてアレックの願いはかなうのか。そしてデリンの、アレックヘの密かな想いの行方は? スチームパンク冒険譚三部作、完結!

1年間楽しませてくれた〈リヴァイアサン〉三部作*1も、とうとう、これにて完結。


リベットだらけのロボットと遺伝子改造された怪獣というスチームパンク・ガジェット、及びイラストが魅力的なんだけど、やはり物語が面白いんだよね。ところで、戦闘熊ってあんなにでかいのね。
戦争の行末は? 最終兵器ゴリアテの正体は? アレックの故国復興の悲願は? デリンの秘めたる想いは? という幾つもの、結末に答えが待っているであろう疑問によって興味を持続させ、その合間に、作中にも言及される冒険活劇のクリフハンガーのようにアクションが挟み込まれていく。


ただ、主人公二人が歩み寄っていくからしょうがないんだけど、お互いのクランカー観、ダーウィニスト観による思考やモラル描写はだいぶ薄まっていて、良く言えば安定だけど、そこから見える異世界の様子はあまりないのが残念。
だから、改変度が一番わかる日本は期待したんだけど、ちょっと立ち寄るだけなんだもんなぁ。クランカーとダーウィニストの、ひとつの可能性として言及されるから、アレックとデリンの印象をもっと描いて欲しかった。あと、二人が食べる蕎麦、なに? 温かいツユに、おろしとイクラって見たことないんだけど(笑)


初めから意図していたのか、そうなってしまったのかわからないけど、三部作読み終わって一番印象的なのは、敵であるドイツの印象が極めて薄いこと。
あくまで、リヴァイアサンを舞台にした二人の物語、と言い切るには、アレックは国際情勢の重要人物過ぎ、それなのに、怨敵であるドイツがどんな国で、皇帝がどんな人物なのか語られないんだよね。
嫌なタイミングで、多脚砲台がぎっちょんぎっちょんと歩いてくる繰り返し。二人の冒険が極めて魅力的だから、読んでる時は気にならなかったんだけど、敵の印象がないというのは結構な欠点だよね。
また、ロリスの必要性が全くないのが、如何とも。結局、なんだったの?


まぁ、「二人の物語」ならば、戦争は二人が出逢うための舞台設定でしかないため、それ以上に敵を描く必要はないし、物語を左右するトップシークレットっぽかったロリスも二人の距離を縮めるためのアイテムでしかないんだよね。ロマンス好きとしては、甘酢に満足してますよ(笑)。「それはまた別のお話」的なラストも悪くないと思う。


あんなに興奮した1巻に比べれば、物足りなさはあるものの、三部作通して十分楽しめた。
ネオ・スチームパンクの作品としてオススメ。


多くのSF読みにとっては、おもしろ博士というイメージしかないニコラ・テスラだけど、クロアチアに行った時のドライバーさんが、「彼は我が国の誇りで、彼がいなければリモコンも、携帯も存在しなかった!」と熱弁振るっていたのが、非常に思い出深い(笑)