You Can’t GO Back and Other Stories

昔には帰れない (ハヤカワ文庫SF)

昔には帰れない (ハヤカワ文庫SF)

笛の音によって空に浮かぶ不思議な“月”。その“月”にときめいた子供時代の日々は遠く……表題作「昔には帰れない」をはじめ、神話的な過去と現在を巧みに溶かしあわせた「崖を登る」、悩みをかかえる奇妙なエイリアンがつぎつぎに訪れる名医とは……「忘れた偽足」、ヒューゴー賞受賞に輝く奇妙奇天烈な名品「素顔のユリーマ」など、SF界きってのホラ吹きおじさんの魅力あふれる中短篇16篇を収録した日本オリジナル傑作集


・「素顔のユリーマ」Eurema's Dam
・「月の裏側」 Other Side of the Moon
・「楽園にて」In the Garden
・「パイン・キャッスル」Pine Castle
・「ぴかぴかコインの湧きでる泉」Bright Coins In Never-Ending Stream
・「崖を登る」The Cliff Climbers
・「小石はどこから」Fall of Pebble-Stones
・「昔には帰れない」You Can't Go Back
・「忘れた偽足」Old Foot Forgot
・「ゴールデン・トラバント」Golden Trabant
・「そして、わが名は」And Name My Nema
・「大河の千の岸辺」All Pieces of a Rivershore
・「すべての陸地ふたたび溢れいずるとき」When All the Lands Pour Out Again
・「廃品置き場の裏面史」Junkyard Thoughts
・「行間からはみだすものを読め」And Read the Flesh Between the Lines
・「1873年のテレビドラマ」Selenium Ghosts of the Eighteen Seventies

青背としては4冊目、『つぎの岩につづく』*1から実に16年ぶりの日本オリジナル短篇集。
その辺の事情は、あとがきに詳しい。
SFマガジン、ミステリマガジンなどの雑誌に掲載されたのみで、単行本未収録の作品は多かったんだけど、これで16篇減。それでも、まだ1冊出せるくらいは残ってるんだけど。


ラファティの謳い文句に出てくるホラ話。
ホラっていうのは、土台が(聞き手の知っている)現実なんだよね。接点までもが現実から遊離すると、それは物語や文学になり、聞き手は作り事だと承知できる。
でも、ホラ話の場合、そうとわかっていても、現実に立脚して構成されているから、「1%くらいはホントかも」と頭の片隅にひっかかる。
ラファティの作品は、そこにSF成分が加わることによって、既知世界が根底から揺さぶられ、なんとも言えない現実崩壊感が味わえる。


伊藤典夫氏が言うところの、こじれてる作品は個人的にはあまり好みでないかも。
『九百人のお祖母さん』*2は面白く、『翼の贈りもの』*3が全くハマれなかったことから、発表年が後期のものが好みでないのかなぁ。それとも、そんな単純な分け方になるものでない?


収録作でお気に入りは、
・「素顔のユリーマ」
何をやってもダメなボンクラの唯一の特技は、超絶メカを作ること。
それによって社会は洗練されるが、それ故に彼は惨めになってしまい……
ボンクラこそが、世界を揺るがしてしまうのもパターン。


・「月の裏側」
つい、普段と違うバス停で降り、いっぱい引っ掛けてきた男。
帰宅が遅くなって、妻に怒られるが、また、そこで降りてみると……
ミステリ風味の短篇。


・「小石はどこから」
子供相手のQ&Aを執筆している男。
雨の日、屋根の下に石が溜まっている理由がどうしても書けず……


・「大河の千の岸辺」
昔、サーカスの演し物になっていた、巨大な川の絵。
それは何メートルもあり、拡大しても、細部までリアルに描かれている。
各地に、同じようなものがあると聞いて、それを集めるが……
これはかなりのコズミック・ホラー。
絵に描かれた雲の正体が……


・「1873年のテレビドラマ」
世界最初のテレビドラマ。
その全13話を紹介していく。
一見、ドラマのあらすじを紹介しているだけに見えて、そこにはレイヤーが幾つか存在している。
あらすじの語り手は言及していないけど、痴話喧嘩も進行中。
更に、すべてが金を手に入れるためのホラかも。