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手紙 (新潮クレスト・ブックス)

手紙 (新潮クレスト・ブックス)

ワロージャは戦地へ赴き、恋人のサーシャは故郷に残る。手紙には、別離の悲しみ、初めて結ばれた夏の思い出、子供時代の記憶や家族のことが綴られる。だが、二人はそれぞれ別の時代を生きているのだ。サーシャは現代のモスクワに住み、ワロージャは1900年の中国でロシア兵として義和団事件の鎮圧に参加している。そして彼の戦死の知らせを受け取った後もなお、時代も場所も超えた二人の文通は続く。サーシャは失恋や結婚や流産、母の死など様々な困難を乗り越えて長い人生を歩み、ワロージャは戦場での苛酷を体験や少年の日の思い出やサーシャへの変わらぬ愛を綴る、二人が再び出会う日まで。

明らかに時代も場所も違う恋人たちの手紙のやり取り、と聞いて「愛の手紙」*1や「800年のメッセージ」*2を連想するけど、そういうパラノーマル成分は全くなし。
原題は『文例集』という意味で、そもそも手紙のやり取りさえされていないのではないか、という評論家の指摘もあったとか。
それは、『手紙』という題でも変わらず、交互になっているから、たまたま噛み合っているように見えているだけで、二組の文通がシャッフルされているのかもしれない。
でも、そこに記された、相手を想う気持ちは本物。


文中、時間についての言及が出てくるので、平行世界SF的読みをしようかとも思ったけど、むしろ、この二人が通じ合っているのかどうかは別にして、人生の物語なんだよね。
人生の密度が彼らの手紙に反映されていて、戦場では数カ月(数週間?)しか経っていないのに、サーシャの手紙では数年のスパンで出来事が経過している。
しかし、サーシャもまた、人生の中で、時間の歩みが遅くなる出来事に直面することになる。


両者の時間が均等に近くなったとき、二人は再会できるのかもしれない。