2012年度掲載翻訳短篇

翻訳短篇は以下。

・「ドリアン・グレイの恋人」……グレゴリイ・フロスト
・「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」……ロバート・F・ヤング
・「雲海のスルタン」……ジェフリー・A・ランディス
・「火星の皇帝」……アレン・M・スティー
・「アウトバウンド」……ブラッド・R・トージャーセン
・「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女(前後)」……レイチェル・スワースキー
・「対称(シンメトリー)」……グレッグ・イーガン
・「錬金術師(前後)」……パオロ・バチガルピ
・「蛩鬼(キョウキ)乱舞」……ジャック・ヴァンス
・「ソロモン・ガースキーの創世記」……イアン・マクドナルド
・「掘る」……イアン・マクドナルド
・「マッド・サイエンティストの娘たち」 ……シオドラ・ゴス
・「リラクタンス――寄せ集めの町」 ……シェリー・プリースト
・「銀色の雲」 ……ティム・プラット
・「ぜんまい仕掛けの妖精たち」 ……キャット・ランボー
・「ストーカー・メモランダム」 ……ラヴィ・ティドハー
・「奇跡の時代、驚異の時代」 ……アリエット・ドボダール
・「河を下る旅」 ……ロバート・F・ヤング
・「生まれ変わり」……レイ・ブラッドベリ
・「ピーター・カニヌス」…… レイ・ブラッドベリ
・「霧笛」……レイ・ブラッドベリ
・「歌おう、感電するほどの喜びを!」…… レイ・ブラッドベリ
・「星の鎖」……ジェフ・レイク
・「アース・アワー」…… ケン・マクラウド
・「奉仕者(サーバー)と龍(ドラゴン)」……ハンヌ・ライアニエミ
・「穢れた手で」……アダム=トロイ・カストロ
・「地図作るスズメバチ無政府主義のミツバチ」……E・リリー・ユー
・「静かに、そして迅速に」……キャサリン・M・ヴァレンテ

掲載数はまぁまぁかな。
最近の傾向で、日本作家特集が多い。また、夏のガイド特集と年末のThe Best特集が組まれるようになった。


印象的だったのは、
・「火星の皇帝」……アレン・M・スティー
ヒューゴー賞ノヴェレット部門/アシモフ誌読者賞ノヴェレット部門受賞作
地球に残した家族を亡くした火星作業員。
葬儀に帰ることも出来ず、しばらくは重い鬱状態に。
しかし、過去に着陸したNASAの探査機に積まれたライブラリーを発見してから、様子がおかしくなり……
久々のスティールで、久々に涙腺に来る。
フィクションの持つ力、というわかりやすいテーマがあるんだけど、それ以上に、みんな、こういうの好きだよね! ああ、好きさ! 
ラースと、その彼女*1火星版という感じ。


・「アウトバウンド」……ブラッド・R・トージャーセン
アナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞作
地球が燃え尽きるほどの戦争が始まり、両親と別れて、木星行きの船に乗った幼い兄妹。
しかし、木星で攻撃で船が攻撃され……
ストレートな冒険成長譚なんだけど、展開はひじょうにドライで、予定調和を考えてると驚かされる。
文字通り機械的な戦争と少年の成長がコントラストになっている。
個人的には『タウ・ゼロ』*2とちょっと印象が似てたかな。


・「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女」……レイチェル・スワースキー
ネビュラ賞ノヴェラ部門受賞作
戦地で命を落とした魔術師。
しかし、彼女の魂は眠りを許されず、王女の召喚に応じて蘇らせられ……
この味わいは記憶にあるけど、ル=グウィンあたり?
男女が完全に分かれている(らしい)世界で、そこから受ける生理的違和感が、血の描写と合わさって印象的。
セクシュアリティとともに、文化や歴史の変遷も目撃していくことになる。


・「蛩鬼(キョウキ)乱舞」……ジャック・ヴァンス
格安で広大な農地を買ったマグナス・リドルフ。
しかし、そこには蛩鬼と呼ばれる凶暴な生物が夜な夜な現れ、作物を食べてしまう。
土地を売った男から、気の毒だから更に安値で買い取ろうと申し出があるが……
知恵と度胸でクールに相手をやり込める、スペースオペラコンゲーム
他のマグナスものも読みたくなるなぁ。これはヴァンスコレクションに期待!


・「ソロモン・ガースキーの創世記」……イアン・マクドナルド
不死を可能にした、ナノ技術者のソロモン・ガースキー。
しかし、企業はそれを独占しようと……
てっきり現代のマッドサイエンティストものかと思ったら、人類の進化、銀河への伝播、さらに巨大なスケールへと物語は広がりを見せる。
数千年が一瞬で過ぎ去る感覚は「銀河北極」*3に近いかな。
非常に読み応えのある中篇。


・「マッド・サイエンティストの娘たち」 ……シオドラ・ゴス
身寄りがなく、クラブと称してひとつの屋敷で暮らす6人の女性。
彼女たちには、唯一、父親がマッドサイエンティスト、という共通点があった……
いわゆる(って言っちゃうよね)スチームパンクなイメージはないけれど、今月号では一番お気に入り。
虚実入り乱れるのも、スチームパンクの特徴だと思うけど、この作品はそれがオタク好きしながら、かなりエレガント。


・「銀色の雲」 ……ティム・プラット
雲から銀を密採掘する飛雲船。
そこに、巨大な軍艦が迫ってきた!
ティム・プラットはSFM登場4回目。
やっぱ、好きだなぁ。しかも、上手いよね。
短い中に、ワクワクさせるガジェット、物語の前後をイメージさせる展開、が無駄なく収められている。
短篇集出して欲しいなぁ。


・「ストーカー・メモランダム」 ……ラヴィ・ティドハー
蜥蜴型種族が支配するイギリス。
劇場を経営するエイブラーム・ストーカーは、陰謀に巻き込まれることに……
非常に、キム・ニューマン的というか、アラン・ムーアっぽいというか、まぁ、大好物ですよ(笑)
同じ世界観の三部作もあるそうで、是非訳して欲しいなぁ。


・「星の鎖」……ジェフ・レイク
「愚者の連鎖」*4の続き。
天空の巨大な歯車によって、運行している世界。
姿を消した恋人の意思を継ぎ、ザライは星の世界へ赴こうと旅を続ける。
前作はイマイチ、ハマらなかったんだけど、今回は読み応えあり。
シリーズもののスピンオフなんだけど、これだけで独立して楽しめる出来。
ネオ・スチームパンクの世界を舞台にしたハードSF、という巧みなバランスを取った作品になっている。


・「穢れた手で」……アダム=トロイ・カストロ
『シリンダー世界111』*5の前日譚。
まだ、捜査官と仕事に就いたばかりのコート。
進んだ文明を持ちながら、ゆるやかに滅亡に向かっている惑星ジン。
そこでは、科学技術と交換に地球の殺人犯が欲しいという。
現地の子どもと仲良くなったコートは、そこにある秘密を感じ取る。
正直『シリンダー世界111』より面白い。
地球人とは異なる思考、そこから導き出される陰謀、コートの忌まわしい過去、と凝縮して詰まっている。
このシリーズは他のも訳して欲しいなぁ。


・「地図作るスズメバチ無政府主義のミツバチ」……E・リリー・ユー
中国の農村に住むスズメバチは精密な地図を描くことができたが、それを知られ、人間に狩られてしまう。
生き残った群れは、新たな地でミツバチたちを征服するが、ミツバチたちの中にいつしか無政府主義者が生まれはじめる……
舞台が中国だし、政治批判とも読めるけど、日本人的には、ハッチやマーヤに脳内変換されてもよさそうなのに、それがまるでされないのが読みどころ(笑)


あと、ヤングが2回掲載されたのは『たんぽぽ娘』の前振り!?
また、クライトンメビウスブラッドベリが亡くなったのも今年で、追悼エッセイは読み応えがあった。


特集では、「2011年度・英米SF受賞作特集」*6、「「ベストSF2011」上位作家競作」*7、「スチームパンク・レボリューション」*8がよかったかな。