本にだって雄と雌があります

本にだって雄と雌があります

本にだって雄と雌があります

洋モノかぶれなんで、基本、国内作家は読まないんだけど、極稀に評判を調べもせず「これは新刊で買わな!」という強烈な衝動に襲われる作品に出会うことがある。
翻訳モノだけど、『文学刑事サーズデイ・ネクスト*1がまさに店頭で見かけて、即買った作品。
ちなみに、サーズデイは直球でツボにドハマり。

深井家には禁忌(タブー)があった。本棚の本の位置を決して変えてはいけない。九歳の少年が何気なくその掟を破ったとき、書物と書物とが交わって、新しい書物が生まれてしまった――! 昭和の大阪で起こった幸福な奇跡を皮切りに、明治から現代、そして未来へ続く父子四代の悲劇&喜劇を饒舌に語りたおすマジックリアリズム長編。

和風マジックリアリズムの理想形と言えるんじゃないかなぁ。国内小説ほとんど読まないから説得力ないけど。


嘘か真か、はたまた法螺か皮肉か大袈裟か、判然としない描写の数々。
しかし、そこには血肉が備わり、温もりさえも感じられる。それは、とぼけた柔らかい語り口と、作中で使用される大阪弁の役割が非常に大きいと思う。
読書中、何かに似てるなぁ、と考えてみたら、親類縁者のみに通じる物語に似てるんだよね。あるエピソードを語るに際して、それが脚色されていく事は経験があると思う。赤の他人が聞けば嘘にしか聞こえなくても、親戚の中ではそれはリアルなこととして共有される。
全体的にそんなトーンで語られていくので、なんだか、とっても懐かしい気持ちになれる。


地の文、伝聞、引用文で語られる出来事に、ファンタジーとリアルの明確な線引きが存在しない。作中作の不思議な出来事を語り手である博が検証できるはずもないけど、読者に一番近いはずの博の周りにも現実とは考えにくい、事実が存在している。
しかし、それぞれにボケとツッコミ的なリズムがあり、その呼吸の中では、ファンタジーとリアルの境目なんてまるで気にならなくなる。
おっちゃんの面白おかしい逸話を聞きながら、しょうもないことで笑ってるうちに、気づけば、物語は語り手の更にその外にまで物語は広がり、環となって人生を包含していく。


未来永劫に続く本筋以外の、枝葉末節が非常に笑えて、印象的な台詞やエピソードに事欠かない。それがまた、物語を魅力的にしている。個人的には「やっぱりな」かな。


本好きはもちろん、蔵書家には是非オススメ。
本が勝手に増えてしまったんよ、と言い訳するためにも(笑)
傑作。