Голубое сало

青い脂

青い脂

雑誌で途中まで読んだものの、単行本化を信じて待ってました!

2068年、雪に埋もれた東シベリアの遺伝子研究所。トルストイ4号、ドストエフスキー2号、ナボコフ7号など、7体の文学クローンが作品を執筆したのち体内に蓄積される不思議を物質「青脂」。母なるロシアの大地と交合する謎の教団がタイムマシンでこの物質を送りこんだのは、スターリンヒトラーがヨーロッパを二分する1954年のモスクワだった。スターリンフルシチョフ、ベリヤ、アフマートワ、マンデリシュターム、プロツキー、ヒトラー、ヘス、ゲーリングリーフェンシュタール……。20世紀の巨頭たちが「青脂」をめぐって繰りひろげる大争奪戦。マルチセックス、拷問、ドラッグ、正体不明な造語が詰めこまれた奇想天外な物語は、やがてオーバーザルツベルクのヒトラーの牙城で究極の大団円を迎えることとなる。

もう、ドストエフスキー2号とかナボコフ7号が執筆すると、謎のエネルギー「青脂」が採取できる……て聞いたら、超面白そうじゃない!?


枠組こそはSFだけど、それを予想していると、ソローキン初体験者は(というか経験者も)かなり面食らうはず。その枠組以上の容積を詰め込まれ、今にも弾けそうな内容はド変態祭りですよ(笑)
ちなみに、過去2作*1に比べると、かなり読みやすい。


最初は、中国語、ロシア語からなる意味不明の造語が入り乱れ、非常に読みにくい。個人的には初めて『ニューロマンサー*2を読んだ体験と近く、近年訳された作品では最もサイバーパンクなパートだと思う。
その内、文豪のクローンたちによる作中作が始まる。これが、待ってましたと快哉を上げたくなるエロ・グロ・ナンセンスの連続。ムカデ人間*3、肉片機関車、半人半獣、などなどが文体模写で語られる。
しかし、これで落ち着くのはまだ早い。
中盤は、サイバーパンクな冒頭がなかったかのような展開を見せ、ここでも本筋に関係あるのかないのか、糞尿オペラや水上人文字といった、素晴らしい作中作が挿入される。
奇想天外な作中作がいくつも収められているのがこの作品の特徴で、しかも、いくらでも広げられそう(ソローキン以外に広げられなそうだけど)なのに、惜しげも無く、それらを使い捨てていく。
そして、後半で、ようやく本筋に。
未来世界や作中作が変態だから、それに対応するのかと思いきや、やはり20世紀中葉のモスクワも輪をかけて変態モード。
しかも、そこは我らが知っている歴史とは異なり、アメリカやイギリスが枢軸側のような扱い。改変歴史をもっと見たいと思っても、そこで披露されるのは、やはりエログロ。
そして、ラストはイーガンもビックリな超次元宇宙!
頭、おかしいんじゃないの!?(最敬礼)


変態を浴びるのに精一杯で、物語の構造とか解釈まで手が回りません。
正直、読んでる途中も、読み終わっても、よくわからないし。ロシアの政治家や文学者のパロディなんだろうなぁ、ということはなんとなくわかるものの、肝心の元の人物を知らないのだから、とてもちゃんと味わえているとはいえない。ただ、次々と提示されるアンモラルな異形の世界は強烈に印象に残り、それをニヤニヤしたり、眉をひそめて楽しむだけでもいいなじゃないかなぁ。スターリンのラブシーンは忘れられそうもない(笑)


個人的には、今年オススメの一冊だけど、純粋にSFを期待している人には、どうかなぁ……
これがお気に召した方は、『ロマン』にレッツゴー!