WHEN CAPTAIN FLINT WAS STILL A GOOD MAN

フリント船長がまだいい人だったころ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

フリント船長がまだいい人だったころ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

スチュアート・ダイベックの息子のデビュー作

アメリカ北西部の海辺の町ロイヤルティ・アイランドでは、男たちは秋から半年ものあいだ厳寒のアラスカで漁に励み、妻たちは孤独に耐えながら夫の帰宅を待つ。十四歳の少年カルは、いつか父とともにアラスカに行くことを夢見ていた。しかしある日、漁船団のオーナーが急死し、町の平穏は崩れ去る。跡継ぎのリチャードが事業を外国に売りはらうと宣言し、住人との対立を深めたのだ。その騒動のなかでカルは、大人たちが町を守るために手を染めたある犯罪の存在に気づく。青春の光と影を描き切った鮮烈なデビュー作

こういう作品まで収めてくれるという意味で、新生ポケミスの成果の一つに数えてもいいんじゃないかなぁ。


ミステリを期待していると外されると思うけど、小説としては非常に良質。全然違うんだけど、トム・フランクリンの作品の感触を思い出した。
説明過多なエンタメ界だけど、この作品は主人公たちの行動原理があまり説明されない。しかし、行間から感じ取られ、それが冬の漁師町という舞台とよくマッチしている。


「少年の日の魔法」もの、と言えるけど、あまりにも苦い。
タイトルは、主人公が幼い頃に好きだった『宝島』*1のキャラクターにちなんでいるんだけど、犯罪行為やノスタルジーが渾然一体となって秀逸。それがわかるのは読後の余韻の中なんだけど、同時に、関わったキャラクター全てにかかっていることにも気づく。


非常に地味だけど、登場人物たちのそれまでの、そして、そこからの人生が短い中に込められており、ずっしりとした読後感を得ることができる。