HOTTENTOT VENUS

ホッテントット・ヴィーナス―ある物語

ホッテントット・ヴィーナス―ある物語

19世紀初頭、南アフリカからロンドン、パリに連れてこられ、「ホッテントット・ヴィーナス」の呼び名で見世物にされたサラ・バールトマン。その死後は、医学のためと称して解剖され、パリの人類博物館に展示・保存された。当時、科学の名のもとに、黒人である彼女に向けられた偏見に満ちたまなざしとは? 本書は、実在したアフリカ女性を主人公にしたポストコロニアル文学の傑作。

「ホッテントット・ヴィーナス」として、イギリス、パリで見世物にされたサラ・バールトマンの人生を再構築して、小説化した作品。


「ホッテントット・ヴィーナス」の名前も、その容姿も思い浮かぶんだけど、こういう事実があったのは知らなかった。また、「ホッテントット」が蔑称ということも。響きが愉快で覚えやすかったんだけどね。ちなみに現在ではコイ族とかコイサン族と呼ばれている。


奴隷制は廃止されたものの、ヨーロッパによる植民地はまだまだ存続し、人種差別以前にアフリカ原住民を類人猿に近い生き物として狩猟の対象にしていたような時代。
図らずも、図像として黒人のイメージをヨーロッパに根付かせたサラだけど、同時に作者は人種差別や女性差別を彼女の人生に重ねあわせる。彼女の夢やささやかな抵抗と、サラを翻弄する学者や男たちが、植民地に対する列強主義の象徴として描かれる。
アカデミズムのもとに彼女を調べる、大先生の狒々爺ぶりときたら!


ただ、フェミニズム系の作者だからなのか、見世物小屋に対する人権問題はスルーなんだよね。勘違いなのか、調べるのが面倒だったのか、サラの同僚として羅列されるフリークスたちが100年後に活躍する
名前ばかり。19世紀のサイドショーを調べるのが面倒で、資料を見つけやすい20世紀前半の有名な奇形たちを引っ張ってきたようにしか見えない。この辺の無頓着さは何とかならなかったのかなぁ。ジョセフ・メリックを出さないだけの良識はあったみたいだけど(笑)、全部創作するとか。
大嘘(物語)を成立させるからには、細部はリアリティを保って欲しかった。


ところで、ホッテントットのエプロンは結局、先天的、後天的、どっちなの?