WE NEED TO TALK ABOUT KEVIN

『少年は残酷な弓を射る』鑑賞



同名小説*1の映画化。


ティルダ・スウィントンほど、追い詰められ、疲労困憊してやつれた演技が似合う女優はいないよなぁ。本作では、最初から最後までそれをたっぷり満喫できる(笑)
しかし、それは、観客にも常に緊張感を強いる作品になっているということ。


親切な説明台詞は廃されている一方で、映像は非常に雄弁にキャラクターの心情を映し出している。
特にティルダ・スウィントン演じるエヴァの、望まない妊娠、それに伴う気が進まない子育ての感情が画面に焼き付けられている。それは当然、一番そばにいる聡明な息子が気づいていないはずがない。
不穏な気配は常に漂っており、冒頭からトマト祭り、ペンキ、水鉄砲、ジャム、と血まみれの惨劇が待っていることが暗示されている。
また、福田里香先生の「フード理論」を紐解くまでもなく、食事のシーンはケヴィンの異常性や不和を表している。義眼のシーンでライチをいやらしく食べるシーンは傑作。食事に気を使わないエヴァの疲れた精神と生活も表現され、豪邸での生活はどうしたのだろう、と疑問がフックになり、同時に不安にもなっている。
直接的な表現は少ないものの、ほのめかしが巧み。


映像だけでなく、現在と過去のカットバックで展開され、しかもそれが不穏だけを切り取ったかのようで、緊張感が高まっていく。
ラスト、そしてその後の待っているのは愛情なのか?
歪んだ親子愛を求める形なのか、生まれながらの純粋悪なのか、観客によって感想はわかれると思う。


映画だとエヴァが作家として中途半端なところで妊娠したことやラストの抗鬱剤のことなど、よくわからないけど、原作はもっとディティールが描かれているようなので、読んでみてもいいかなぁ。


おとなのけんか』に続いてジョン・C・ライリーが事なかれ主義の夫を好演しているため、ハムスターは奴の仕業としか思えなかった(笑)