THE TEN-CENT PLAGUE : The Great Comic-Book Scare and How It Changed America

有害コミック撲滅!――アメリカを変えた50年代「悪書」狩り

有害コミック撲滅!――アメリカを変えた50年代「悪書」狩り

暴力・流血・性的シーンが少年非行を助長するという世論によって、アメリカから「有害コミック」が一掃され、800人以上の原作者や作画家が追放された。本書は、1950年代前半に起こった事件を丹念に調べ、当時の関係者に取材して詳細を明らかにした労作。日本の悪書追放運動との関連を考察する「訳者あとがき」を付す。

国家権力によって「マンガ」が取り締まられる――平野耕太『以下略』の予告マンガを彷彿とさせるけど、実際に、1950年代のアメリカでは「悪書」としてコミックスが告発される事態が起きていた。


この暗黒時代があったのは知ってはいたけど、恥ずかしながらマッカーシズムによって引き起こされたものだと思っていました。「普通のアメリカ人(白人)家庭」像から外れるものを取り締まるというメディアコントロールが同時多発的に起こっていて、二次大戦後の国内に潜む敵を殲滅するという風潮だったのかな。


1950年代の魔女狩りを語る前提として、自然と、新聞漫画から始まり、現在のようなコミックブックの形になってく歴史が詳しく語られていく。
ジェリー・シーゲルウィル・アイズナー、スタン・リー……有名なクリエイターしか知らないけど、歴史の一部としていっぱい出てきますよ。っていうか、スタン・リー、スゲエな! この頃からいるんだもんな。
ここだけでも大変勉強になるんだけど、やはり本書のメインである50年代の様子が白眉。


そもそもは、精神科医ワーサムなどが「コミックスが少年犯罪を引き起こしている」という、日本でもここ20年、耳にたこができる言い回しがきっかけ。
ちなみに、この頃のアメコミは、いわゆる大勢がイメージするヒーローものではなく、犯罪やホラーものが花ざかり。ロマンスものも多かった。スーパーマンとかが非難の対象になることもあったんだけど、それよりはやはり、犯罪もの=少年犯罪増加、というわかりやすい図式があった。
ナチスと戦ったにもかかわらず、「悪書」を焚書するという蛮行。
しかし、個人的、より恐ろしかったのは、コミックの作り手側がまるで空気を読めておらず、どうせマンガ嫌いが騒いで終わりだろ、と高をくくっていたら、いつの間にか「コッミクス=悪」という風潮になっていたこと。
これって、日本の我々(マンガ好き)にも言えることで、気づいたら、漫画規制が通っていた、という事態になっていそうな恐怖。
アメリカのコミック界は状況を打破すべく、悪名高きコミックス・コードを立ち上げるが、これが自縄自縛の状態に……


ちなみに、アングラコミックはこのあと。『MAD』の生き残り戦略も面白い。
現在につながるヒーローコミック・シルバーエイジはこの50年代の騒動を糧に、60年代に花開く。
この時に、犯罪、ホラー、ロマンスが絶滅に追いやられたからこそ、アメコミ=ヒーローと言う印象が根付いちゃったのかな。


海外コミックが好きならば、読んでおくべき一冊。