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連環宇宙 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

連環宇宙 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

謎の超越存在“仮定体”による地球の時間封鎖という危機を乗り越えた人類は、新惑星の開拓がもたらす繁栄を謳歌していた。精神科医サンドラはある日、新たに患者となる少年が書いたという謎めいたノートを渡される。そこに綴られていたのは、1万年後の未来に復活した人々が残した手記だった。サンドラは巡査ボースと協力して少年とノートの秘密を調べようとするが、不自然な妨害に遭う。一方、手記の中では、12個の居住惑星を連結した〈連環世界〉を旅する巨大な移動都市国家が、“仮定体”の真実と人類の運命を解き明かすべく、荒廃した地球をめざしていた。ヒューゴー賞星雲賞受賞作『時間封鎖』と前作『無限記憶』に続く、《時間封鎖》三部作の完結編。

『無限記憶』*1はイマイチ印象がなく、『時間封鎖』*2はいい思い出だったな……なんてことにならなければいいけど、という漠然とした不安の末に、とうとう最終巻。


う〜ん、面白い!


二つのパートが交互に語られていく。
時間封鎖解除直後の地球と、1万年後の惑星イクウェイトリア。その1万年後の未来は現在(封鎖解除直後だけど)の精神科医の患者の手記に書かれたものであり、しかもそれは『無限記憶』の続きとなっている。そうなると、面白くなかった(言っちゃった)前作に俄然意味が出てくる。連続性があるのか、それとも1冊まるまる作中作だったというのか!?


SFとしては、ゲートによって幾つもの惑星の海が連結され、大陸を船にして航行する1万年後のパートに目が行くけど、物語としては、ほとんどSF度がない現在のパートが面白い。キャラクターの行動原理のバックボーンがしっかりしているため血肉を備えており、手記の真相という、シリーズを読んできたものなら気にならずにはいられないミステリが、強力な推進力になっている。
1章が短いため物理的にリーダビリティがよく、同時に二つのパートの展開が気になるという、ツインカムエンジンな構成(笑)
しかも、絶対に交差するはずのない二つの時間軸が、現在と未来が衝突するかのように、終盤で一方がも一方の物語を補完させ、読者に一つの物語であるということを強くしらしめる巧さ。


仮定体の正体なんてちゃんと風呂敷たためなくても別にいいよ、と思わせちゃうドラマの巧さがウィルスンの強みだと思うんだけど、ラストではSFとしてもなかなか満足できる超巨視的なヴィジュアルを提供してくれる。


確かに、1年=1億年という第一部の強烈なインパクトは超えられてないけど、がっかりさせないまとめ方は職人芸的だし、何より小説として面白かった。


三作まとめて、オススメ。