SHANTARAM

シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈中〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈中〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈下〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈下〉 (新潮文庫)

上中下巻ものはあまり手を出したくないんだけど、評判がいいんで着手。

強盗で20年の刑に服していた男は、脱獄してインドに渡る。ガイドして雇った男、プラパカルと親友になり、普通の観光客が行かないようなボンベイの裏までも脚を運ぶようになる。その後、プラパカルの故郷で数カ月を過ごし、彼の母親から“リン・シャンタラム”と名付けられる。ボンベイに戻ったのもつかの間、強盗に全財産を奪われ、スラムに住むことに。しかし、しかし、早々にスラムで火事が起こり、リンは以前学んだ応急手当で、治療にあたる。彼は闇医師として住人の信頼と人生の意義を見出していくことになる……

という部分で、まだ上巻の半分。


最初の方は、バックパッカーのような、未知の世界への新鮮な驚きの視線で描かれるんだけど、この後は、ボンベイマフィアの賢者のようなボスと信仰を深めたり、医薬品の闇市場を取り仕切るハンセン病コミュニティの長が出てきたり、謎の殺人鬼に震えたり、コレラで奮闘したり、売春宿を支配する謎のロシア人女性と対決したり、陰謀で投獄されたり、恋をしたり、仲間を喪ったり、麻薬に溺れたり、アフガニスタンの戦場に向かったり、とてんこもり。


もう、それなんてキートン?(or豪士 orテンマ)もしくは、ホテル・モスクワ?


長いし、1頁/文字数も多いんだけど、ページターナーとしては非常に優秀。
信じがたいんだけど、作者の実体験を元にしているそうで、展開がまるで読めない。過剰とも言えるネタの連続が、逆にノンフィクション感があるんだよね。
まぁ、実話かどうかは脇置いても、すこぶる面白い冒険小説、ピカレスクロマンであることは確か。終盤で明らかにされる真相にも驚かされる。それと同時に、ミステリ、パニック、アクション、恋愛、哲学、旅行記……あらゆるジャンルが詰め込まれているといっても過言でなく、取り散らかっちゃいそうなところを、インドの混沌と喧騒に包まれることによって、大きくまとめ上げている。


感想が追いつかないほど、次から次へとエピソードが投入されていくんだけど、一番印象的で、かつ紙幅が費やされているのがインドの情景。
元々のイメージを深める人もいれば、変わる人もいるはず。しかし、主人公がインドに馴染み、深く愛していることは伝わってくるはず。また、キャラクターも無数に出てくるものの、彼が心底嫌う人間は一握り。彼の「愛」と「赦し」は、インドでの生活と経験によるもので、それがさらにインドの様々な姿にフィードバックされている。


オススメの一作。


あとがきが面白くないなぁ。
作者のその後の足取りを教えて欲しかった。