アレン・M・スティール補完

今月*1の「火星の皇帝」がよかったので、SFM掲載作を補完。


・「ジョン・ハーパー・ウィルスン」John Harper Wilson〈『S‐Fマガジン416号』掲載〉
 並行世界のアメリカ。
 そこでは、軍主導で宇宙開発が行われていた。
 初めて月の大地を踏んだウィルスンは、帰還の後世間から姿を消した。その理由は?
 かなり好きな作品。
 軍部主導の暗鬱な世界の中、それを覆す一人の良心。
 ラストに、そのセリフ持ってくるか〜!
 
・「レッド・プラネット・ブルース」Red Planet Blues〈『S‐Fマガジン416号』掲載〉
 火星で見つかった遺跡。
 その部屋には様々な仕掛けがあり、それを解かなければ先に進めない。
 基地に呼ばれたミュージシャンはなぜ自分が連れてこられたかも、前に部屋に入ったものがどうなったのかも知らされない。
 一方、遺跡を巡ってロシアとアメリカが対立し……
 異星人の遺跡という点では「ダイヤモンドの犬」*2と似てるけど、ベテランロッカーがセッションするのは愉快。


・「震える大地」Trembling 〈『S‐Fマガジン444号』〉
 化石から抽出したDNAにより、現代に蘇ったデイノニクス。
 放し飼いにされている保護区を訪れた大統領候補とそのスタッフ。
 しかし、候補の命を狙う組織の影もあり……
 『ジュラシック・パーク*3の系譜に連なる作品だけど、展開はそれを利用した陰謀もの。
 

・「マジンラ世紀末最終大決戦」Mudzilla's Last Stand〈『S‐Fマガジン451号』掲載〉
 日本が開発した巨大ロボット。
 しかし、戦場でも街中でも、全く役に立たない。
 アメリカの興行主がそれを買い取り、ショーも大盛況だが……
 初めて読んだスティール作品がこれ。
 巨大ロボがトラック壊すショーとか、たまりませんよ。
 『20世紀SF 6』*4に収録されているのでオススメ。
 

・「戦争記念碑」The War Memorial〈『S‐Fマガジン483号』掲載〉
 月面を舞台にした戦争。
 コンバット・スーツが故障し、戦場で立ち尽くした男が見たものは?
 他の作品でもそうなんだんだけど、先行作品を連想させるガジェットを使いながら、それとは違う捻りを見せるのがスティールから受けた印象。
 これはもちろん『宇宙の戦士』*5。しかし、そこに描かれる戦場は正反対。
 

・「キャプテン・フューチャーの死」The Death of Captain Future〈『S‐Fマガジン487号』掲載〉
 自分をキャプテン・フューチャーと同一視している船長の宇宙船のクルーになってしまった男。
 傍若無人な命令ばかりで、人格的にも体型もキャプテン・フューチャーとは正反対。
 ある日、救難信号をキャッチし、本来の航路から外れて、発信源に向かうと……
 「火星の皇帝」と似たタイプの作品。
 SF好きをニヤニヤさせながら、ラストでホロリとさせ、その後も物語は継がれていく、という展開は、みんな好きだよね!


・「羊飼い衛星」Shepherd Moon〈『S‐Fマガジン499号』掲載〉
 宇宙のレンブラントと呼ばれる天才画家。
 彼は第六衛星上から土星を描き続けていた。
 彼を愛しながらも、その生活が耐えられない妻は……
 天才画家、圧倒的な土星、妻の想いが同列で描かれ、ラストの一筆に全てが表現される。
 『90年代SF傑作選(上)』*6にも掲載。
 

・「ニューハンプシャー上空、2437機のUFO郡あらわる」2,437 UFOs Over New Hampshire〈『S‐Fマガジン504号』掲載〉
 ニューハンプシャーの小さな町。
 一見普通だが、そこの住人はUFOにさらわれた(と自称)するものばかりが住んでいる町だった。
 スティールの特徴で、インタビューや書簡などルポルタージュ的な構成がある。
 この作品は、それが全面に出ていて、「東スポSF」みたいなアンソロジーに載った作品だとか。
 楽しいと同時に、皮肉っぽい一作。
 

・「ヒンデンブルク号、炎上せず」...Where Angels Fear to Tread〈『S‐Fマガジン511号』掲載〉
 ヒンデンブルク号の調査にやってきた未来人。
 しかし、何故か史実の時間に爆発しない。
 そのせいなのか、航時機は帰還のワームホールに弾かれてしまう。
 一方、20世紀末、未知の飛行物体が墜落したという報を受けた超常現象調査局は現場に向かう。
 冒頭から違和感を覚える。
 読んでいるうちにその理由が見えてくる。
 比較的普通のタイムパラドックスものだけど、ちょこちょことオタ的くすぐりが。


・「ロボットは隣人を愛す」Agape Among the Robots〈『S‐Fマガジン547号』掲載〉
 家庭用ロボットの開発競争をする2チーム。
 しかし、一台がもう一台の頭にリンゴを叩きつけるという行動を見せ……
 ロボットの自我? と行くと思わせて、コミカルでハートウォーミングなオチ。


「マース・ホテルからの生中継で」は『80年代SF傑作選(上)』*7が手元に無いので、今回は未読。


どちらかと言うと、シリアスな作品より、オタク寄りの方が好みだし、面白いと感じた。
お気に入りは、「ジョン・ハーパー・ウィルスン」「マジンラ世紀末最終大決戦」「キャプテン・フューチャーの死」「ニューハンプシャー上空、2437機のUFO郡あらわる」「ロボットは隣人を愛す」あたり。


90年代は注目の作家的な扱いだったのに、21世紀に入ってぱったり訳されなくなっちゃったのはなぜ?
面白い作品多いのになぁ。


せっかくなんで、ざっと見てたら再発見。
SFM616号*8の表紙って描きおろしじゃなくて、『BLACK MIST』*9と同じだったのね。