THE SHARING KNIFE: PASSAGE

死者の短剣 旅路 上 (創元推理文庫)

死者の短剣 旅路 上 (創元推理文庫)

死者の短剣 旅路 下 (創元推理文庫)

死者の短剣 旅路 下 (創元推理文庫)

死者の短剣シリーズ*13巻。

地の民と湖の民。出自の違いを超えて結ばれたフォーンとダグだったが、ふたりの結婚は、ダグの一族である湖の民にどうしても受け容れてもらえない。ダグは湖の民としての技を使って、反目しあうふたつの民族の架け橋になりたいと考え、フォーンと共に再び旅に出た。ところがせっかくふたりきりの旅だったはずが、途中で立ち寄ったフォーンの実家で、なんと末の兄フィットがくっついてきてしまう。予想外の事態に困惑するフォーン。一方ダグは医術の匠にも匹敵する自らの能力を使い、他の民の治療に挑むのだが……。実力派の著者のシリーズ第三弾。
湖の民が行う治療行為、それが他の民を“惑わし”てしまうのか? 意外な結果に戸惑うダグ。海を目指す三人は、一隻の平底船に乗客兼漕ぎ手として乗り込むことに。そこでフィットは若い女性船長にひと目惚れするが、相手には行方不明の婚約者がいた。フィットの恋は前途多難だ。他の民の船にダグが乗り込んでいるだけでも、奇異の目で見られるというのに、ダグのもとに地の民との喧嘩がもとで警邏隊を飛び出した湖の民の若者がやってくる。果たしてふたつの民族は融和することができるのか? ファンタジーの新しい地平をひらく傑作シリーズ。

『メモリー*2って、もう5年前か……
〈五神教〉*3って三部作じゃなかったっけ?


それはさておき。
他の作品と比べても地味な印象が拭えない本シリーズ。しかも、いつにも増して今回は地味……。
でも、3巻の中では一番面白いんじゃないかなぁ。


ファンタジーは景色を楽しむジャンルなんだよね。
これまでも舞台は移動しているものの、村と悪鬼の住処を往復しているだけでイマイチ旅をしている印象は薄かった。しかし、今回はフォーンとダグの旅自体が目的な上、彼らの行動の場が川を下る平底船なので、必然的にその景色は移り変わり、基本的に生まれ故郷以外はあまり知らないフォーンとフィットが読者の目の代わりになってくれる。


一方、ダグの目的も定まってきた。地の民と湖の民の間にある反目をなくすことは決して不可能なことではなく、ダグの努力が地の民に理解されていく様子が、船旅と一緒にゆっくりと描かれている。
また、シリーズ中で最も登場人物がヴァラエティーに富んでいて、それが旅情を増していると同時に、世界の変革に近づくかも、という希望が見える。


悪鬼との戦いのような大きな山場はないものの、この世界を構成する“基礎”の働きや、ダグの探る可能性が興味深く書かれていて、そこでファンタジーとして読ませる。
ラストシーンも、旅の終わりであると同時に、二人の目的と未来、新たな始まりを暗示するような風景にファンタジーを感じさせる。


次巻が気になるけど、次こそマイルズ読みたいなぁ。