OPERATION MINCEMEAT

ナチを欺いた死体 - 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実

ナチを欺いた死体 - 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実

また、WW2のイギリスの奇策ノンフィクションに着手。


アフリカ北岸を確保し、いよいよヨーロッパに侵攻しようという連合軍。しかし、上陸地点がシチリアなのは誰が見ても明らか。枢軸側の目を反らすための作戦を立案しなければならない。そこで、イギリス軍情報部は、架空の将校の死体を用意し、シチリア以外の上陸作戦を記した嘘の文書を持たせ、海に飛行機が墜落して死体が漂流したように見せかけて、それをドイツに渡そうというのだ!


作戦立案の中心人物のモンタギューによる著書*1もあり、映画化もされていて、戦後有名になった話しらしいけど、今回は当時隠されていた人名なども明らかにされ、また、主人公である死体の本当の身元に対しての反論に対する反論、補遺など、ミンスミート作戦に関しては満喫できる。


前半は、いかにして遺体を調達し、架空の将校のプロフィールを作り上げ、いつ海に放つか、ということに費やされる。
後半は、無事死体が流れ着き、情報がナチに渡り、その嘘をヒトラーが信じるか? という展開。
中心人物のモンタギューとチャムリーによる、やり過ぎとも言える死体のプロフィール造りがホントに楽しそうな反面、後半は非常にスリリング。
親ナチのスペインが死体を収容するものの、それが親英のスペイン海軍だったため、思惑通りにはナチの手に渡らない。上陸作戦は刻一刻と迫っている。
しかも、外交的には、「極秘文書だからすぐ引き渡して欲しいんだけど、そうとバレないようにさり気なさを装いながら、実はナチに情報が渡って欲しい」という欺瞞を行わなければならない。


スエズ運河を消せ』*2と違って、こちらの作戦はしっかりと文書に残っている上、戦局にも大きく関わったので、登場人物多数。
はしがきの一部を引用すると、

作戦案は、一人の小説家の頭の中で生まれ、その実現には、優秀な法廷弁護士だけでなく、先祖代々の葬儀屋、法医学者、埋蔵金目当ての探検家、発明家、潜水艦の艦長、女装趣味のイギリス軍情報将校、レーシング・ドライバー、美人秘書、情報を鵜呑みにするナチ党員、フライ・フィッシングをこよなく愛する無愛想な提督など、まったく意外な人物が何人も関与していた。

この段階でもう、中2男子心が鼓舞されるというもの!


これは、戦争ものと言うより人生の物語。
どんなチョイ役ですら、彼(彼女)に焦点を当てれば、そこにはまた別のドラマチックなエピソードが広がっている。
中心人物のモンタギューとチャムリーからして面白く、モンタギューは常にパイプを吸っている元法廷弁護士、チャムリーは身長が高すぎて戦闘機に乗れなかった冒険野郎。
いちいち上げてると切りがないんで、お気に入りキャラ(笑)は、
表向きは軍需省完了だけど、実は情報部で装置を提供するQ課の発明家。
モンタギューの実の弟でありながら、ソ連のスパイで、「卓球」の名付け親、アイヴァー。
死体を運搬する、猛スピードが売りのレース・ドライバー。
上陸したら、まず紅茶を嗜む砲兵隊将校。
蝶のコレクションと椅子造り(座ると壊れる)が趣味の有閑貴族だが、実はナチのスパイマスター。
何より、死体を海に流す任務を請け負う潜水艦セラフ号のエピソードが、それ一冊で読みたくらい。イギリス嫌いのフランス人を運ぶ任務のため、アメリカ人の振りでクラーク・ゲーブルの真似をし続けた、とか。
ナチの情報分析官の「元銀行員だが、今も銀行員に見える」って表現は、なんて銀英伝!?(笑)


これはほんの一部で、枝葉末節に至るまで、面白エピソード満載。
もうキャラ立ちが尋常じゃないんだけど、それゆえにかえってノンフィクションを実感させてくれる。これがフィクションだったらやりすぎだよ(笑)


ホントに、楽しませてもらった一冊。