2011年度掲載翻訳短篇

翻訳短篇は以下。

・「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」……テッド・チャン
・「ぼくたちのビザンティウム」 ……アラン・デニー
・「この土地のもの」 ……ティム・プラット
・「島」……ピーター・ワッツ
・「孤船」……キジ・ジョンスン
・「ペリカン・バー」……カレン・ジョイ・ファウラー
・「ヒロシマをめざしてのそのそと(前篇)」……ジェイムズ・モロー
・「神が手を叩くとき」……マイクル・F・フリン
・「セバスティアン・ミンゴランセの七つの人生(のようなもの)」……フェリクス・J・パルマ
・「ヒロシマをめざしてのそのそと(中篇)」……ジェイムズ・モロー
・「無線人」 ……チャールズ・ストロスコリイ・ドクトロウ
・「酔いどれマンモス」…… チャールズ・ストロス
・「エインダのゲーム」 ……コリイ・ドクトロウ
・「ヒロシマをめざしてのそのそと(後篇)」……ジェイムズ・モロー
・「ギャンブラー」……パオロ・バチガルピ
・「砂と灰の人々」……パオロ・バチガルピ
・「天使」……ピーター・ワッツ
・「アルファ・ラルファ大通り」 ……コードウェイナー・スミス
・「時は準宝石の螺旋のように」 ……サミュエル・R・ディレイニー
・「亀裂」 ……ジョン・G・ヘムリイ
・「トロイカ」……アレステア・レナルズ
・「懐かしき主人の声」……ハンヌ・ライアニエミ
・「可能性はゼロじゃない」……N・K・ジェミシン
・「ハリーの災難」……ジョン・スコルジー
・「小さき女神」……イアン・マクドナルド

今年少ないなぁ。
まぁ、「SFスタンダード100ガイド」特集が2回、日本人特集が3回、初音ミクが1回(笑)だから、必然的に少ない。
しかも、再録2作、前中後編が1本あったしなぁ。


印象深かったのは、
・「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」……テッド・チャン
発達したAIはどこまで人間に近づけるのか?
意外にあらすじ書きにくい。とりあえず、チャン最長作品(今のところ)。
知能ある愛玩物を創造するという点では、ちょっと「手の上の友人」*1と似た印象。
ただ、ロボットの国の住人としては、こちらの方が理解しやすいかも。
AIが人間に近づくと聞くと、シンギュラリティもののイメージがあるけど、解説にあるようにチャンはそれを信じていないので、まさに神同様のシンギュラリティというショートカットを使わずに、進化と学習を描いていく。でも、やっぱりシンギュラリティものの一種かなぁ。
自我や愛情が、人間のそれと見分けがつかないのなら、その存在は認めるべきだよね。


・「孤船」……キジ・ジョンスン
ネビュラ賞ショート・ストーリー部門受賞作
衝突を起こし、小さな救命艇にエイリアンと閉じ込められた女性。
彼らは延々と性交を繰り返し……
アウトラインだけでもひじょうに強烈だけど、幾通りにも解釈が可能で印象的な短篇。


・「ペリカン・バー」……カレン・ジョイ・ファウラー
世界幻想文学大賞短篇部門受賞作
不良娘のノラが15歳の誕生日に入れられた寄宿学校は、理不尽な地獄のような場所で……
これまた、ひじょうに嫌な話でオススメ(笑)
シャーリー・ジャクスン賞も受賞していて、「くじ」*2のように、どこかで実際に行われているような気持ち悪さがある。


・「ヒロシマをめざしてのそのそと」……ジェイムズ・モロー
シオドア・スタージョン記念賞受賞作
二次大戦末期、モンスター俳優のソーリーのもとにFBIが現れる。
極秘作戦に、彼の演技が必要らしいのだが……
最近では珍しく、前中後分載。
怪獣好きとして楽しい作品。


・「セバスティアン・ミンゴランセの七つの人生(のようなもの)」……フェリクス・J・パルマ
『時の地図』*3作者の短篇
ミンゴランセは、右と左の売店、どちらに行くのか。
その選択により、彼の人生は分岐していく。
SFというより、奇妙な味に近くて好み。
分岐した主人公が、同じ部屋にいるという絵面は、ミッシェル・ゴンドリーの映像が目に浮かぶ。


・「無線人」 チャールズ・ストロスコリイ・ドクトロウ
ネットが違法となったアメリカ。
情報を得ようとする行為はテロとみなされる中、ロスコウは無線アクセスポイントをゲリラ的に提供し続けていた。
『リトル・ブラザー』*4にも通じる部分があり、ハッカー的思想と行動はドクトロウらしい。


・「エインダのゲーム」 コリイ・ドクトロウ
ちょっと太めの女の子、エインダはオンラインゲームにはまっていて、腕前も知られている。
ある日、相棒から、リアルマネーを稼げるミッションがあると聞かされ……
面白いんだけど、やはりSFっぽさは薄い。
ただ、30年前からすると、ここに描かれていることは完全にSFだよね。


・「アルファ・ラルファ大通り」 ……コードウェイナー・スミス
再録。だけど、SFMには初掲載。
人類補完機構シリーズの手触りは、やはり不思議だよね。
状況も設定もほとんど明かされないのもかかわらず、ストーリー自体はなんら引っかかることもなく読み進めてしまう。
固有名詞の響きは強烈に残るのに、その意味は語られないず、しかし、それが気にならない物語というのは他に見ない。
遠未来(=神話)でも、人間の性質は変わらない。


・「亀裂」 ……ジョン・G・ヘムリイ
《彷徨える艦隊》*5のジャック・キャンベルの変名。
調査団が突然異星人に襲われたという報を受けて急行した宇宙軍。
しかし、圧倒的多数による奇襲で壊滅状態。
何とか生き残った小隊は、調査団の居留地にたどり着く。
異星人は好戦的ではないと聞いていたのだが……
《彷徨える艦隊》とは違って、こちらは陸戦部隊。
異星文化人類学ものにもなっていて、際立った特徴はないものの、普通に面白く読めた。


・「可能性はゼロじゃない」……N・K・ジェミシン
突如、物事の確率が高まった町。
そこでは宝くじの当選率も事故の発生率も高まる。
一人暮らしのアデルは、毎日沢山のお守りを身につけて外出する。
感想は特にないんだけど、けっこう好き。


・「ハリーの災難」……ジョン・スコルジー
コロニー防衛軍の技術者ハリーは、コルバ族との外交で、殴りあう羽目に。
『老人と宇宙』シリーズ*6番外編。
やはり、このシリーズは楽しいなぁ。もっと未訳はないの?


・「小さき女神」……イアン・マクドナルド
近未来のネパール。
生きた女神となった五歳の少女。
しかし、血を流すと人間として俗世に戻らなければならない。
大人になった彼女は、神としての過去を恐れられ、結婚も出来ずにいた。
ある日、インドの神の如き新人類と結婚することになるが……
「ジンの花嫁」*7姉妹編。
個人的には「ジンの花嫁」より好きだなぁ。まぁ、よく覚えてないんだけど。
前半の生き神パートと後半のサイバーパンク的展開、食い合せの悪そうな要素が、アジアの空気に包まれて、なんとも言えない一体感を生み出している。
その中でこそ、語られる少女の成長譚。


特集では、「2010年度・英米SF受賞作特集」*8、「パオロ・バチガルピ特集」*9、「SFスタンダード100ガイド」*10、「Best of 2005-2010」*11