Steel and Other Stories
- 作者: リチャード・マシスン,尾之上 浩司,伊藤 典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/10/14
- メディア: 文庫
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思いの外、初訳が多くて嬉しい。
人間同士のボクシングが禁止された近未来、リングで闘うのは人間ではなく精巧なロボットたちになった。しかし変わらないものもある。華やかな勝利とは裏腹の負け犬は今でも存在する。旧式のロボットを抱え、落ちぶれて金もなく窮地に追いつめられた元ボクサーの男は、起死回生の手段に打って出る……名作「四角い墓場」(『運命のボタン』所収)を改題した表題作をはじめ、ホラーからユーモアまでを網羅した、巨匠の傑作集
・「リアル・ステイール」Steel
『運命のボタン』*1に収録されていたので、まだ記憶に新しい。
非常に男臭い熱血もの、という印象だったんだけど、
再読すると主人公がポンコツに取り憑かれていると言うか、狂っているように見えて怖い。
映画(宣伝)の印象はかなり違うんだよなぁ。ハートウォーミングもの?
・「白絹のドレス」Dress of White Silk
祖母と暮らす、母親のいない少女。
母の部屋と白いドレスを慕っているが、祖母はそれを禁じていて……
異形の正体がはっきりと示されず、そこに少女の妄想が被せられ、更にもやっとした味わいに。
・「予約客のみ」By Appointment Only
予約客のみの床屋。
そこに来るお客は、何故か体調不良で……
マシスンの短篇によく出てくる○○モノ。割とコミカル。
・「指文字」Finger Print
バスで見かけた女性二人組。
一人は、猛スピードの手話で話していて、連れは疲れたようにそれを見ている。
突然、その手話の女が服を引っ張ってきて……
異形に触れて自分以外の時間が止まってしまう感覚、見てはいけないものを見てしまったようなバツの悪さ、
ねっとりとした不気味な女と、別の生き物のように動く手話。
凝視するのもなんだけど、猛スピードの手話に見入っちゃう感じはわかるなぁ。
・「世界を創った男」The Man Who Made the World
精神科を訪れた男。
彼は自分がこの世界を創ったというが……
本に沿って世界を創ったと語る男の物語が台本調というのがキモで、更に彼らの世界を創った上位存在が……と読んでみたり。
・「秘密」Interest
富豪のフィアンセの実家を訪れた女性。
彼と母親は、何故か父親を恐れ、緊張している。
彼女もまた圧迫感を感じる。その正体は?
終盤でオチの方向は読めたんで、個人的にはラストの注釈はちょっと余計な気も。
・「象徴」The Thing
あらゆるものが管理されてしまった未来。
父が息子に見せたい象徴とは?
・「おま★★」F…
タイムマシンで未来に到着した教授。
そこで、彼はある物のせいで逮捕されてしまう。
その理由は?
「ショク……」や「食物の誘惑」の邦題でいくつものアンソロジーに収録されているんだけど、今回の題名が一番うまいなぁ。
・「心の山脈」Mountain of the Mind
脳波計の実験に協力した青年研究者。
その脳波計グラフを見た途端、それと同じ形の山脈を見つけねば、という思いに取り憑かれる。
恋人も振りきり、狂ったように車を走らせ、ようやく見つけたものは?
題名から、元ネタはあれ。
しかし、奈落にも狂気にも陥らず、それでも世界は素晴らしく、自分はここにいる! というメッセージはマシスンらしい。
・「最後の仕上げ」The Finishing Touches
すべてを手にした同僚を殺し、彼の美しい妻の絶望した顔を見たいと望む男。
何食わぬ顔でその家に行くが、彼女の様子が予想と違う。
好みなんだけど、女性の勘というのがちょっと……。理屈が欲しかった。
お気に入りは、「リアル・ステイール」「予約客のみ」「指文字」「おま★★」「心の山脈」あたり。