THE MIRACLE WORKERS

意外なことに、日本初のヴァンス短篇集。

『竜を駆る種族』と並び称され、異星を舞台に壮絶な咒法合戦を繰り広げる表題作から、幻想味あふれる小品『音』『ミトル』(ともに本邦初訳)、音楽言語に基く異文化描写が精妙かつユーモラスに綴られる代表作『月の蛾』、そして地球人と異生物の戦いを壮大に緻密に描くヒューゴー、ネビュラ両賞受賞作『最後の城』まで……複雑玄妙、絢爛豪華、問答無用のヴァンス傑作選、全8篇収録。


 収録作品
・「フィルスクの陶匠」The Potters of Firsk
・「音」Noise
・「保護色」The World Between
・「ミトル」The Mitr
・「無因果世界」The Men Return
・「奇跡なす者たち」The Miracle Workers
・「月の蛾」The Moon Moth
・「最後の城」The Last Castle

まず、深いこと考えず、あふれるエキゾチズム、異星生物との戦いが、もう楽しい。
前者は「フィルスクの陶匠」「月の蛾」、後者は「保護色」「奇跡なす者たち」「最後の城」で楽しめる。残りの三作は、ヴァンスのイメージとはちょっと違う、奇妙な味寄りの短篇。


お気に入りは、
・「フィルスクの陶匠」
 惑星フィルスクに赴任した局員トーム。
 そこは平和な惑星なのだが、謎めいた陶匠の村があり、彼らは遺体の骨を釉薬にしているという。
 しかし、遺体がないときは生きた人間を連れて行くと聞き、トームは調査に行くが……
 釉薬の鮮やかさが非常に印象的。


・「保護色」
 未開発の惑星に降り立ったブルースターの調査隊。
 しかし、ライバル惑星のケイが自分たちに領有権があると通達してきた。
 それを無視し、テラフォーミングを開始するが、ケイは害虫を巻き始め……
 ちょっとバランスが悪い気もするけど、怪獣(笑)の応酬はやはり楽しい。
 テラフォーミングを利用した最終攻撃やラストの一気に広がるSF観など、見所多し。
 『タフの方舟』*1に雰囲気似てるかな。


・「ミトル」
 文明が崩壊し、巨大な(?)カブトムシなどが支配する世界。
 そこでたった一人で暮らす ミトル。
 ある日、空から何かが降りてきて……
 説明が何もなく、不思議な味わいの短篇。


・「奇跡なす者たち」
 魔法が理論化された世界。
 大陸を支配下においたフェイド卿だが、現住生物が突然攻撃してきた。
 しかし、魔法は人間にしか効かず、現住生物には通用しない。
 包囲されたとき、役立たずだと思われていた見習い魔法使いが……
 題名の意味を読者にミスリードさせ、意味を反転させる展開が見事。
 ヴァンスのSFともファンタジーとも取れない異世界ならでは。


・「月の蛾」
 惑星シレーヌに赴任した地球人のシッセル。
 そこは、常に仮面をかぶり、楽器を鳴らしながら会話する文化を持っていた。
 地球からの殺人犯を捕まえろという命令が来るが、素顔はわからず、シレーヌの文化になれないシッセルは捜査が思うように進まず……
 何度読んでも面白いなぁ。
 この世界でないと物語も事件も成立しない、SFミステリの傑作。
 異世界文化、振り回される主人公、シレーヌならではのラスト、否の付け所がない。


あとがきに、まるで当たり前のように、〈ヴァンス・コレクション〉の名前が!