EPEPE

エペペ

エペペ

上から読んでもEPEPE、下から読んでもEPEPE。
海外旅行する前に読んでおきたい本として、必ずオールタイムベストに入る一冊。


ちなみに、作者は『そうはいっても飛ぶのはやさしい』*1のカリンテイ・フリジェシュの息子。

一人の男が空港に着いた。そこは目的地とはかけはなれた都市……まるで聞いたこともない言葉の洪水、その中で出会ったエペペとの交流!?

停滞した官僚主義的社会は『未来世紀ブラジル』などを思い起こさせるけど、こちらは言葉はおろか、ボディランゲージも通じないということ。その国の人々の言葉は「エペペ……エペペ……」としか聞こえない。
英語ですらままならない身としては、一人で外国に放り出されるというシチュエーションだけで十分怖い。さらに、荷物もパスポートもわけがわからないうちに取り上げられてしまう主人公の焦燥感といったら、想像もしたくない。しかも、主人公は言語学者なのに、その武器すら全くの無用の長物。
どこに行くにも息苦しいほどの長蛇の列、そして、他人と一緒でないという孤立感に、旧共産圏の空気が色濃く感じられる。


主人公が降り立ったのが、どこで、何が起きているのかは全く説明がない。
その中で印象的なのが、毎日積み上げられていく高層ビル。これがバベルの塔に見えてならない。主人公視点だと不条理ものだけど、逆の立場なら、共通言語の国にやってきた言葉を解さない異邦人。
主人公には理不尽な社会に見えても、バベル崩壊前の世界では、もしかしたらうまく回っているシステムなのかも知れない。
主人公にも理解できるのが肉欲と暴力というのも象徴的だし、ラストで小川に導かれるのも何やら神話的。
本人たちには楽園(旧共産圏)でも、異邦人にとってはそれは狂っているし、バベルの塔の末路を我々は知っているわけだ。


深読みせずとも、奇妙な味好きにはオススメ。