A DISCOVERY OF WITCHES

魔女の目覚め 上 (ヴィレッジブックス)

魔女の目覚め 上 (ヴィレッジブックス)

魔女の目覚め 下 (ヴィレッジブックス)

魔女の目覚め 下 (ヴィレッジブックス)

その本は図書館の奥でひっそりと眠っていた。彼女を待ちわびるように……。イエール大学の若き歴史学教授ダイアナは、錬金術の研究中にオックスフォードのボドリアン図書館で一冊の写本を手にする。褪せた金箔が放つ虹色のきらめき、鼻をつく不思議なにおい。それは彼女に何かを語りかけているように見えた。由緒ある魔女の家系に生まれながら魔法を否定して生きてきたダイアナはすぐに本を返却するが、やがて周囲で奇妙な事が起きはじめる。すべてはあの写本が原因なのか? ダイアナはオックスフォードの教授で天才科学者と名高いヴァンパイアのマシューと共に壮大な謎に取り込まれてゆくが――
失われた写本〈アシュモール782〉を狙う執拗な魔手が迫るなか、マシューはダイアナを連れ故郷フランスへ飛ぶ。孤高の城で待つのは冷血なヴァンパイアの女主人イザボー。だが魔女を憎むイザボーと心通わせるうち、ダイアナはマシューに隠された悲しい過去と、驚愕の真実を知ることになる。そんな矢先、ついに恐れていた事態が! ダイアナは強大な敵から愛する者を守るため、封印された謎を解き、自らに眠る未知の力を呼び覚ます事を決意するが……。魔法と科学と歴史が交錯する精緻なプロット、次々とたたみかけるミステリー、胸揺さぶるロマンス――1000ページ超一気読み必至の新感覚ファンタジー

あらすじだけだと、どういう舞台設定なのか判断がつかず、しかも、古書を巡るミステリのようにも見える一方で、パラロマアンテナが反応する。


読み始めてすぐに、主人公が人間とは違う魔女(魔法使い)、ヴァンパイアという種族だということがわかる。種族間に愛情が生まれることはなく(タブー)、中でもヴァンパイアは能力的に圧倒的な存在。そこから、よく見られる、身分違いを置き換えたパラノーマルロマンスのパターンがわかる。
その割には、求愛行動は奥手だし(笑)、ストーリーの骨格はしっかりしているので、パラロマの変形か――という論旨を考えていたんだけど、いやいや、待てよ。


今まで読んだ数少ないパラロマ体験からすると、作者は大きく2タイプに分けられる。恋愛を絡めた異世界が書きたい作者と、恋愛(セックスシーン)だけが書きたい作者。
この作者はどちらなのかと問われると、これが、なかなか難しい。
ロマンスも、ストーリーも両立させているのは大したものなんだけど、ダイアナが古書を読み解いていくシーンはかなり面白い。特に、印璽と帳簿から秘密結社の姿を浮かび上がらせていく様子は古書ミステリとして上質だし、何より作者が楽しそう。これだけでも、ロマンス一辺倒のパラロマ(撞着語法っぽいけど(笑))でないことがわかる。
しかも、経験上、ストーリーが上手いパラロマでも、キャラクターは主人公二人が焦点になるものだけど、この作品では二人の家族がファミリーコメディ並にキャラ立ちしているのが珍しい。ご先祖様の幽霊や意志を持った家が楽しい。普通、ロマンスでは家族を捨てでも愛を取るものだけど、こちらは不倶戴天であるはずのお互いの家族とうまくやっていこうとするんだよね。それがあるからこそ、二人の関係が世界の構造を変えていく(であろう)展開に不自然さがない。
また、普通のパラロマと比べて、ロマンス展開は落ち着いてるんだけど、特徴的なのは食事シーンが多いこと。ここまで多い作品は稀かも。メタファーやフード理論を持ち出すまでもなく、食事によって親密さを巧みに盛り上げている。
物語のキーアイテムである謎の写本や、魔女やヴァンパイアなどの生態も最後まで魅力を持続させる。


二人の恋愛を丁寧に書きながら、世界が広がっていく様子も丹念に、かつダイナミックに描かれ、続きが非常に気になる……
ギャー! 三部作!?
改めて見れば、題名が第1巻ぽいよ!
リーダビリティもいいんだけど、この続刊待ちが欠点。2巻は原著もまだだし。
それが気になる方は、無事完結してからオススメ。