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憎鬼 (RHブックス・プラス)

憎鬼 (RHブックス・プラス)

しがない公務員のダニーは通勤途上、ビジネスマン風の男が老女に襲いかかり容赦なく殴打する場面に遭遇した。その後街では平凡な市民が突然凶暴化し、見ず知らずの他人を、友人を、家族を襲う事件が頻発する。メディアは彼らを〈憎鬼〉と名付けた。死者は増え続け、ダニーは家族と自宅に閉じ籠るしかなかった。やがて軍隊による〈憎鬼〉狩りが始まり、ゴーストタウン化した街にも希望が見えたかに思えたが、ある朝ダニーの身辺に予想しなかった事態が!

ゾンビものの変化球を言ったところか。


70年代以前のゾンビやインベーダー(作中でも『盗まれた街』*1に言及されている)ものが冷戦下の、姿が見分けられない敵が隣に潜み、あまつさえ気づけば入れ替わっているかも知れない、という恐怖を描いたもの。『28日後』*2イデオロギーの違いだけで憎悪する、911以降の空気感。そして、見知らぬ人間が街中で突然凶行に走る、という避けようのない恐怖に理由付けたのがこの作品。


次々と目撃される事件(スプラッタ)、それにより徐々に不穏な空気に覆われていく街(パラノイア)、軍の出動(希望)とお約束の展開が、普通の男の目線で描かれていてなかなか楽しめる。しかし、その後が意外で、ちょっと驚き。というかSF。『地球最後の男』*3とちょっと感触が似てるかな。
……驚きなんだけど、色々と説明不足で、納得行かない部分が多々。ネアンデルタール人クロマニョン人というか、進化というか、それだけで暴力が説明できる? 本当に憎悪されているのか、単にそう思い込んでいるのか、客観的に分からないし、そもそも見た瞬間に敵だと判断できるって、あまりに即物的・非人間的すぎて、希望も何も無いよなぁ。ホモ・サピエンスから次の段階へ、という文学ならば、理解できなくて当然なのかも知れないけど。


ちなみに三部作で、この納得できない部分が、続編でSFアクションとして昇華されているような気もするけど。