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剣姫―グレイスリング (ハヤカワ文庫 FT カ 6-1)

剣姫―グレイスリング (ハヤカワ文庫 FT カ 6-1)

最近の青背同様、嫌な予感がしつつも着手。

左右違う色の瞳を持ち、賜(たまもの)とよばれる超人的な才能に秀でた者が産まれる世界。なかでも殺しの賜を持つミッドランズのカーツァ姫は、王の暗殺者として恐れられている。だが彼女はその陰で秘密組織を作り、弱き人々を助けていた。あるとき拉致されたリーニッド王父を救出し、王子ポオとともに誘拐の黒幕を探るうち、カーツァは忌まわしき陰謀の存在を知る――強くて悩める少女の波乱の旅を描き、あまたの賞に輝く成長物語。

おおっ! これは予想外のアタリ!


中世ヨーロッパ風世界なので一応ファンタジーという体裁だけど、その中身は様々なジャンルの要素をサンプリングし、骨太な成長譚に仕上がっている(まぁ、今や、サンプリングを上手くやらないと、面白いジャンルものは出来ないと思うけど)。


この物語のガジェットが、賜と呼ばれる能力を持って生まれる者たち。その能力は単に言葉を逆にしゃべるという役に立たないものから読心まで様々で、そこには、魔法も怪物も神話もファンタジーのお約束はまるで出てこず、ある種、超能力のように描かれている(ボスキャラを考えると『X-MEN』や『HEROES』みたい)。過剰な説明も設定もないため、世界観よりも先に物語自体にすんなりと入ることができる。また、左右の瞳が違うのも賜持ちの特徴で、それが物語のポイントになってる。
主人公のカーツァは、殺しの賜を持っているため、王の暗殺者として働いている。その暗い能力と王への恐れで、彼女はあまり感情を表すのが上手くないうえ、人間関係にも自分の容姿にも鈍感、癇癪持ちという魅力的な萌えキャラ(笑)。人類最強レベルの戦闘力を持っていて、女戦士キャラとしてはあまり見ない造形かも。


暗い能力を克服するのではなく、それを受け入れながら不器用に成長していく。しかも、成長と物語の展開が、その能力なくしては進まず、ガジェットと物語が乖離していない構造が巧み。
ファンタジーらしからぬ雪山サバイバルや超人同士の格闘など、賜の使い方が存分に描写されている。


また、成長物語につきもののロマンスも、これくらいの塩梅が甘酸っぱくていいんですよ! カーツァが自己の内面を見つめ直していくのにも、彼女のものではない、賜が鏡となって写しだしていく。
カーツァの恋愛観・家庭観は非常に現代的なんだけど、賜の暗い影響、生い立ちが紹介されているため、不自然さは薄い。


表紙イラストに補完されて、カーツァの魅力が全開だけど、彼女以外のキャラクターも印象的に描かれており、冷静で頑固なカーツァの代わりに、読者に対して要所要所で感情的な働きかけを見せる。


三部作の予定らしいけど、物語は完全にこの1冊で完結しているのでご心配なく。ただ、読めば、第2作目も確実に読みたくなるはず。
オススメ。