THE CEMENT GARDEN

セメント・ガーデン (Hayakawa novels)

セメント・ガーデン (Hayakawa novels)

『セメント・ガーデン』イアン・マキューアン早川書房
処女長編。

ぼくが14歳の夏、父さんが発作を起こして死んだ。そのとき家族に残されたのは父さんが買った大量のセメントだった。だからその翌年、今度は母さんが病気で死んでしまうと、ぼくは姉さんのジュリーといっしょにその死体をコンクリート詰めにして地下室に隠すことを思いついた。そうしないと、大人たちがやってきて姉さんとぼく、幼い弟や妹は離れ離れになってしまうから。こうしてぼくたち四人の子供だけの生活、やりたい放題の自由な毎日が始まった。ぼくは好きなだけマスターベーションにふけり、ジュリーはボーイフレンドと遊びまわり、妹は部屋に閉じこもったきり出てこない。が、やがて最高に思えた生活にも翳りが見えはじめる。そしてぼくとジュリーの関係にも大きな変化が……両親の死をきっかけに、思春期の少年が見出した楽園とその崩壊。現代英国文壇でもっとも注目を浴びる作家が、死体遺棄、近親相姦をテーマに放つ傑作長篇。

意識したわけじゃなかったんだけど、『庭師』に続いて庭の物語。
ただし、こちらはセメントで作られた人造の楽園。セメントは容易にひび割れ、長女のボーイフレンドというヘビの存在により、楽園の崩壊は避けられない。
近親相姦の空気は初めから漂っており、クライマックスで濃密さを一気に増す。真の楽園である母の部屋に回帰し、幼児がじゃれ合うかのように愛し合う。ナチュラルで禁忌は感じられないのに、同時に二人は大人になりかかっていることを自覚しているため、非常にエロティック。
4人姉弟が中心になっているから、あまり目立たないけれど、彼らが住んでいる地域も過疎化が進んでいて、全体に感じられるドライさを増している。
マキューアンはテーマこそは官能的・猟奇的だけど、視線が乾いているのに、それがマイナスには働いていないのが魅力。