BEING THERE

庭師 ただそこにいるだけの人

庭師 ただそこにいるだけの人

『庭師 ただそこにいるだけの人』ジャージ・コジンスキー〈飛鳥新社
『チャンス』*1の原作。

主人公のチャンスは孤児である。生まれてすぐ偶然にも大富豪に拾われ、庭師として育て上げられた。屋敷と庭から一歩も外に出たことがない。学校にも通ったことがない。読み書きもできない。庭仕事をしている以外は、ひたすらテレビを見ている。ところがある冬の日、主人が死んでしまい、生まれて初めて外の世界に出ることに……。

イエールジ・コジンスキー似たような名前の作家っているんだなぁ、と思っていて、〈Jerzy〉が英語読みでジャージだと気づいたのが数年前。しかも、『庭師』が唯一未読の『予言者』*2の新訳だったなんて!
みんな知ってたの!? 知らなかったの俺だけ!?


代表作『異端の鳥』*3はしんどく、『異境』*4はよくわからず、それに比べると本作はひじょうに読みやすいし、笑えるんだけど、その裏にあるものはなかなか苦い。
使い古された言い回しだけど現代の寓話であり、それは作品内でも言及されている。チャンスはエデンから俗界に降りた聖人であり、凡人たちは彼を訳知り顔で、納得したふりしか出来ない。世界は彼を受け入れ、平和の道を進めるのか、それとも権力者に利用されて堕ちてしまうのか?
どちらにしても、彼自身は新たな庭を手に入れることはできず、孤高のままなんだよね。


変わり者でも、正直ならば受け入れられる(ただしイケメンに限る)という話。