EDWARD FINNIGANS UPPRATTELSE

死刑囚 (RHブックス・プラス)

死刑囚 (RHブックス・プラス)

『死刑囚』アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム〈RHブックスプラス ル1-3〉
話題になってたので着手。

冬の朝、ストックホルムで起きた傷害事件。単純な事件だった……逮捕された男が、6年前にアメリカの監房で死んだ死刑囚とわかるまでは。恋人を殺し、死刑囚となった男だったが、刑の執行を待たずに独房で死んだ……はずだった。男の死刑を見届けることだけを支えにしていた被害者の遺族、男を間近で見ていた看守……6年間止まっていた時が再び動き出す。あの時監房で何があったのか? 生きていた死刑囚はどうなるのか? やるせない衝撃の結末が胸を打つ!

『制裁』*1『ボックス21』*2に続くシリーズ3作目。とは言っても未読でも楽しめる。現に読むまでシリーズって知らなかったし。
また、ミステリなのに主人公達はほとんど狂言回し。死刑のないスウェーデンは、死刑の可能性がある犯人を、その国に引き渡さない。一方、アメリカは本来死刑になったはずの男が生きているとあっては面子を潰されたまま。超大国の圧力に対して、北欧の小国はどう対処するのか? 死刑は正義なのか、復讐なのか? それらのテーマの前には、一介の刑事である主人公にできることはない。
死刑制度が廃止された国だからこそ描ける、死刑問題に直面した正義のあり方の思考実験。
物語にいくつかの段階があり、どうやって死刑から逃れたのか、アメリカに引き渡すのか否か、死刑反対派の声は通るのか否か、というある種のタイムリミットサスペンスとして、ひじょうにスリリングに引き込まれる。読んでいる内に事件の真相はどうでもよくなって、死刑か否かのみにだけ集中する。これは、被害者遺族が真実や正義を超えて、ただ犯人の死だけを望むのと一緒なんだよね。
大部分がシミュレーション的に進むんだけど、終盤で現代ミステリな展開にするりとスライド。合理的な正義にして復讐。狂ってるなぁ。


ホントに、これ単品で十分に楽しめるのでオススメ。
ただ、主人公エーヴェルトと恋人の挿話は、この1冊だけだと必要性を感じない。シリーズなんだからしょうがないけどね。