爛れた闇の帝国

爛れた闇の帝国

爛れた闇の帝国

『爛れた闇の帝国』飴村行〈角川書店

高校2年生の正矢は生きる気力を失っていた。先輩でもあり不良の崎山が、23歳も年の離れた正矢の母親と付き合い出し、入り浸るようになったのだ。学校も退学し、昼間からぶらぶらと過ごす正矢に、小学生の頃から親友同士の晃一と絵美子は心配して励ましてくる。一方、独房に監禁された男が目を覚ました。一切の記憶を失い、自分が何者であるかもわからない。どうやら自分は大東亜戦争まっただ中の東南アジアで「大罪」を犯してしまったらしい。少しずつ記憶を取り戻す男だが、定期的に現れる謎の男によって拷問が始まった…。やがて、絶望の淵にいる正矢と男は、互いの夢の中に現れるようになった。しかし、二人の過去には恐るべき謎が隠されていた!日本推理作家協会賞受賞『粘膜蜥蜴』から1年半…満を持して放つ、驚愕のエンタテインメント。

非「粘膜シリーズ」で、(たぶん)この現代が舞台なので、奇天烈さは薄いものの、構成は巧みで、個人的には『粘膜兄弟』*1よりも好き。
接点のない二つの物語が徐々に収束していく展開で、現代パートは男子ふたりと女子の仲良し三人組の青春もの。それが、大東亜戦争中に残酷な拷問を受ける男の物語を重なってく。もちろん、狂気と血臭を伴って。坊っちゃん応援歌やヘモやんのようなブッ飛んだ存在は出てこないけど、現代の普通(とも言い切れないけど)の少年たちが主人公な分、その狂気は同時に恐怖としての実感があり、力を手に入れたが故に日常が剥がれ落ち、噴き出る暴力と欲望は際立っている。特に、あらゆるものを塗りつぶし、しかし原動力になっている性欲は、これまでの作品でも最高かも。
また、過去パートも牽引力は強く、拷問とその理由でページをめくらせ、時間の壁と共に日常も崩れ、狂気で現代と交わっていく様子にイッキ読み。男の秘密に大笑い。個人的には楳図かずおの『笑い仮面』*2を連想した。飴村世界の東南アジアはUMAの宝庫です(笑)


「粘膜シリーズ」ファンなら楽しめるのでオススメ。それ以外は……どうだろう?(笑)